うずくまる人影
高校生の頃、電車通学をしていた私。
家から駅までは自転車で向かい、近隣の駐輪場に自転車を置いていました。
駅に併設された駐輪場は利用者も多く、特に夕方は学生たちのたまり場に。
騒がしい場所が苦手な私は、近くにある高架下の駐輪場をよく利用していたのです。
この高架下の駐輪場は、駅の駐輪場に比べてどこか物悲しい雰囲気がありました。
なんとなくどんよりとしていて、そのせいか利用者もそこまで多くはありません。
ある日の学校帰り、いつも通り駐輪場に自転車を取りにいったときのことです。
「ん……?」
少し離れたところに、自転車の前でうずくまる人影が見えました。
辺りが薄暗かったこともあり、その姿をはっきりとは確認できませんでしたが、なにやら探し物をしているようです。
自転車の鍵か、なにか落とし物でもしたのでしょうか。
私が自転車を停めている場所は、その人物のいる位置よりも奥にありました。
その光景を横目に、横を通り過ぎようとしたときです。
「……?」
なにか、“ぐにゅり”としたものを踏んだような気がしました。
気のせいかと思ってまた一歩踏み出すと、また同じような感触を靴の底に感じたのです。
不思議に思って視線を地面に向けると、いくつかのコロコロとした物体が。
その正体が気になり、よくよく目を凝らしてみると……
「……っう、うああああぁあ!!」
地面に落ちていたのは、人間の指でした。
探し物
あまりの衝撃に大声を上げ、私はその場に尻もちをつきました。
しかしそんな私の状況にも動じることなく、隣でしゃがみこんでいるその人物は、ずっとなにかを探し続けているのです。
その異様さに、思わずその人物に目をやると……
「えっ……?」
なにかを探すように、地面に這わせた両手。
その手は血にまみれて真っ赤に染まり、なぜか半分以上の指がありません。
驚きのあまり私は言葉を失い、その人物から目が離せずにいました。
するとその人物は、近くの自転車の車輪を思いっきり回し……
「え、なにを……」
勢いよく回る車輪に、残り少ない指を差し込んだのです。
私が見たものは……
もう自転車などどうでもよくなった私は、逃げるようにその場を立ち去りました。
「地面に落ちていた指は、あの人物の?そして探していたのは、まさか自分の……?」などと考えたくない想像ばかりが、頭を駆け巡ります。
しかし家に帰ると、自転車を持って帰らなかったことを母親に咎められ、取りに戻ることに。
恐る恐る駐輪場を再び訪れるも、あの人物の姿はありませんでした。そして、地面に転がっていたはずの指も、どこにも見当たらなかったのです。
私は、夢をみていたのでしょうか。
あの日見た光景が、今でも脳裏にこびりついて離れません。
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。
◆松木あや
ホラーやオカルトが好き。在住する東北の地で、ひんやりとした怖い話を収集しています。
恐怖体験の「おすそわけ」を楽しんでもらえると嬉しいです。
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