山奥で見つけた廃屋
目的地を決めないドライブが趣味の私は、その日もあてもなく車を走らせていました。
そうして、車が行き着いたのはとある山の中。木々の緑が夏の日差しを程良く遮って、なんとも清々しい空間でした。
せっかくだからここらで少し休憩しようと、車を降りて辺りを散策することに。
「……お?」
歩き始めて数分も経たないうちに、一軒の家を見つけました。
しかし、もう人は住んでいないのでしょう。長年管理されていないであろう見た目の荒れ方から、すぐに廃屋であることがわかりました。
なんとなく興味本位でその廃屋に近付き、隙間から家の中を覗いてみます。
半開きの床の間
ちゃぶ台に置かれた湯呑み、食器棚に並ぶ茶碗。
タンスからはみ出た衣類に、十数年前のカレンダー。
かつて本当に人が住んでいたであろう生活感で溢れ、なんともノスタルジーな雰囲気でした。
「……ん?」
奥の床の間の、敷かれたままの布団に目がいきました。
半開きのドアが邪魔でよく見えませんが、掛け布団までそのままで、起き抜けのように“こんもり”と膨らんでいます。
「もう十数年もあのままなのか」などと考えながら、目を細めてよーく見ていると……
「……っう、う、うわあああ!!?」
人が、布団の中からこちらを見ていました。
いつの間に
驚いて大声を上げ、後退る私。
そしてもう一度布団に目をやると、そこには誰もいませんでした。
「なんだ、見間違いか……」
勝手に廃屋と思っていたが、人が住んでいた。それだけならありえる話ですが、目の前で人が消えたとなれば話は違ってきます。
きっと見間違いだったんだと自分に言い聞かせ、車へ戻ろうと後ろを振り返り、駆け出した瞬間……
「……ふふ、ふ」
いつの間にかすぐ後ろから、女性の笑い声が。
背筋が凍り、振り返ることなく一目散に車へと走りました。
その後は無我夢中で下山し、何事もありませんでしたが、あれ以来一人きりのドライブが怖くてできません。
一瞬だけ見えた布団の中の人は、男女の区別がつかないほど痩せ細り、若いのか年老いているのかもよくわかりませんでした。
しかし、生気を感じさせない見た目でありながら、私を見て少しニヤリと口角を上げていたのです。
皆さんも、山の中の廃屋には、ご注意を。
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。
◆松木あや
ホラーやオカルトが好き。在住する東北の地で、ひんやりとした怖い話を収集しています。
恐怖体験の「おすそわけ」を楽しんでもらえると嬉しいです。
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