向かいのホームの男性
ホームで電車を待っているとき、向かいのホームに立つ一人の人物が気になりました。
その人物は、スーツ姿の40代くらいの男性。
なんとなく目が離せずにその男性を見ていると、ふと男性と目が合いました。
気まずい気持ちから、反射的にパッと目を逸らします。手持ち無沙汰からスマホを取り出し、軽くメールなどをチェック。
そしてまた顔を上げ、なんの気無しに再び男性に視線をやると……
「っ……!」
男性は、まじまじと私を見つめていました。
予想外の行動
目が合っているというのに微動だにしない男性。
なんとなく気味が悪く、また視線を逸らします。
そのとき、電車がやってきました。
「間も無く、◯◯線に電車が到着、◯◯線に電車が到着ー」
アナウンスと共に向こうから電車の姿が見えはじめたので、スマホをポケットにしまい、乗車のときを待ちます。
そのときでした。
「……えっ」
先ほどの男性が、私の目をじっと見つめながら白線の内側、つまりプラットホームと線路の間まで歩き出したのです。
そして……
「◯◯線に電車が到着しましたー」
電車の通過に合わせて、その身を線路へ投げ出したのです。
消えた男性は……
驚いて、その場に腰を抜かす私。
しかし、周りの誰一人としてなんの反応も示しません。
「……お兄さん、大丈夫?」
心配した周りの人が、口々に声をかけてくれます。そこで私は察したのです。
先ほどの男性は、“視えるべきではない者”だったのだと。
声をかけてくれる周りの人たちに「ああ、どうも」などと曖昧に礼をして立ち上がると、動揺したままの気持ちで乗降口へと足を伸ばしました。
そのとき……
「っひ……!?ぎゃああああっ!」
電車の乗降口とホームの間の、僅かな隙間。
そこから先ほどの男性が、無表情で私を見つめていました。
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。

◆松木あや
ホラーやオカルトが好き。在住する東北の地で、ひんやりとした怖い話を収集しています。
恐怖体験の「おすそわけ」を楽しんでもらえると嬉しいです。
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