小さな“ほこら”
幼い頃に住んでいた田舎町には、古い神社がありました。
あまり管理が行き届いていないのでしょう。
周りは草木が生い茂り、参拝者を見ることもほとんどありませんでした。
田舎には遊ぶところが多くはなく、私は友人たちとよくその神社の周りで遊んでいました。
ある日、神社の近くでかくれんぼをしていたときのことです。
「いーち、にーい、さーん、しー……」
鬼の声を聞きながら隠れ場所を探していると、生い茂る草木を掻き分けた先に見たことのない小さな“ほこら”があるのが見えました。
体を隠すには少々小さなほこらではありましたが、他にめぼしい隠れ場所もありません。
私は、そのほこらの後ろに身を隠しました。
声がしたのは……
「もういいよー」
その声を合図に、かくれんぼがスタートしました。
“ジャリ、ジャリ……”
息を潜めて隠れていましたが、足音が近付いてきたのがわかりました。
これは早々に見つかってしまったなと、ほこらから顔を覗かせるも……
「あれ?」
確かに近くまで友人が来ていたと思いましたが、その姿が見当たりません。
おかしいなと思いながらも、再びほこらに身を隠そうとすると……
「みーつけた」
その声と共に、背後から肩に手が置かれました。
消えた隠れ場所
私は反射的に立ち上がり、振り返ることなく一目散にその場から走り去りました。
隠れていたほこらは小さな丘の前にあり、後ろから誰かが来ることは考えにくい場所だったのです。
また、その声には聞き覚えがなく、鬼を含めた友人の誰一人としてその場所には近付いていませんでした。
私は大騒ぎをしながら、すぐに友人たちを連れてその場所に引き返しましたが、どんなに探してもあのほこらが見当たらないのです。
一体、私はどこに隠れていたのでしょうか……。
もしもあのとき後ろを振り返っていたら、そこにはなにが見えたのでしょう。
今となっては、知る由もありません。
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。

◆松木あや
ホラーやオカルトが好き。在住する東北の地で、ひんやりとした怖い話を収集しています。
恐怖体験の「おすそわけ」を楽しんでもらえると嬉しいです。
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