自殺した友人
昨年の夏、大切な友人が突然自殺しました。
なにか悩み事があったのか……、本当の理由は分からないけれど、私はこう思うのです。
彼女が亡くなる数日前に起こった、あの出来事が死に関係しているのではないか、と。
あの日、近くの商業ビルで映画を観た私たちは帰りの電車を待つため、駅のホームに立っていました。
時刻は18時。
まだ日は登っているものの、周辺の道路にはポツポツと街灯がともりはじめています。
「暑いね」「はやく電車来ないかな」
そんなことを言いあっていると、Sが唐突に頭上を指さしました。
マンションの非常階段
「あれ、なんだろう?」
彼女の指の先には、6階建てのマンション。
その非常階段を見つめながら、Sは不思議そうな顔をします。
「え?なにかある?」
視力が悪いせいでしょうか。
私は目を細めますが、これといっておかしなものは見当たりません。
「ほら、あそこだよ」
Sはカバンからスマートフォンを取り出し、画面に触れます。
ズームしたカメラアプリには、確かに薄いピンク色のなにかが映っていました。
「……人?ピンクのスカートの女の人だ。なんであんなところに立っているんだろう」
ピンク色のスカートの女
こちらに背を向けて、非常階段に佇む女性。
Sはどんどん画面を拡大していきますが、私は大きな違和感を覚えました。
かなりズームしているというのに、女性の姿がハッキリ見えすぎているのです。
あんなに小さな人影、普通はピントが合わなくなってぼやけてしまうはず。
「ねえ、もうやめようよ。なんか気持ち悪い……」
不安になった私はSの肩に触れますが、彼女は画面を凝視したまま。
まるで、私の声など聞こえていないかのようです。
「あ!あの人、振り向きそう!」
らんらんとした目ではしゃぎだしたS。
「ね、ねえ。ちょっと……」
“パンッ”
頭上から風船の割れたような音が聞こえ、私はマンションを見上げました。
やはり、私の目では女の姿を捉えることはできません。
別人の顔
“ザザ”
真横から足音が聞こえて、Sの方を見ます。
「えっ……!」
線路に向かってフラフラと歩みを進めるS。
先ほどまでとは打って変わり、ぼうっとしたその顔はまったくの別人のものように感じられました。
「え、え、ちょっと、S!」
私が彼女の腕を掴んだ瞬間、ファーンと大きな音を立てて目の前を通り過ぎていった急行列車。
その後すぐに正気を取り戻したSは、何事もなかったかのように先ほど観た映画の感想を口にしていたのです。
……しかし、この出来事から一週間も経たないうちに、彼女は自宅のマンションから飛び降りて亡くなりました。
よほど遺体の損傷が激しかったのでしょう。
お葬式で彼女の亡骸と対面することはできませんでしたが……。
棺桶の中で眠るSは別人の顔になっているのではないかと、私はそんな予感がしたのです。
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。

◆底渦
中学生で都市伝説にドハマりし、2chホラーと共に青春を駆け抜けたネット廃人系オカルトライター。
怖い話の収集・考察が趣味です。
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