葬式
よく、お年寄りから仕事を取り上げない方がいいって言いますよね。
周りがよかれと思って隠居させたらたちまちボケてしまって……みたいな。
うちの祖母はお店でした。社交ダンスのドレスショップをやっていたんですが、叔父が結構強く言って辞めさせてしまったんです。
正直もう、儲けはほとんどありませんでした。
でも祖母にとっては生きがいだったのでしょう。店を閉めてから力が抜けたみたいにあっという間に亡くなってしまったのです。
もう75歳でしたが、亡くなる直前まで一人暮らしでしっかりした人でした。
わが家は父の仕事の関係で遠方に住んでいるので、遺産整理は家を相続する叔父に全部任せることに。
年寄りの1人住まいなんてそう荷物もないだろうって、正直甘く見ていました。
祖母は50年続けた店を畳む時でさえ、マネキン2体だけ手元に残してあとは全部売っちゃうくらい物に執着のない人。
そんなに遺品整理が難航すると思わなかったんです。
叔父が「片付けが終わらないから手伝ってくれ」と泣きついてきたのは、祖母が亡くなって3ヶ月後。
彼1人に押し付けることではなかったと、孫の私も有休を取って片付けの手伝いに行くことになりました。
異様なあり様
久しぶりに見る祖母の家は、はっきりいって異様でした。
庭の草木は伸びて荒れ放題になっていて、なぜか玄関の傘立てに造花の束がぎっしり挿してあります。
叔父が先に家に入って片付けを始めている手筈だったので、私と父は玄関の鍵が開いているのを確認して戸をあけました。
家の中も、記憶の中の祖母の家とはかけ離れていました。
玄関先に挿してあった造花が畳に、障子に、無造作に刺さっています。
ふと2階で大きな音がしました。
父が叔父の名前を呼びながら階段を上がって、私もそれに続きます。
「あ、兄貴、こいつら、こいつらが邪魔してくるんだ俺が片付けようとすると」
部屋の奥で叔父がマネキンと取っ組みあっていました。
勿論マネキン相手ですから、実際は叔父が1人で暴れているだけ。マネキンに何度も何度も拳を振り下ろしながら叔父が叫びます。
「か、母さん俺たちよりこいつらが大事だったんだ……。この家だってみんなこいつらにやっちまうつもりだったんだよ。酷い話だろ……」
泣き出す叔父をなだめすかして、そのまま病院に連れていきました。
残された家
家のあのあり様が、祖母が亡くなる前にやったものなのか、罪悪感に耐えかねた叔父がそうしたのかはわかりません。
叔父はまだ入院したまま、祖母の家はまだ片付かないままです。
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。

◆味醂
子どもの頃から怖い話が好きで、ホラー小説やネット怪談など、文章作品を中心に親しんできました。
映像作品の痛そうな表現や急に驚かせる演出は少し苦手ですが、想像がふくらむ怖さや、日常の違和感が少しずつ不穏さを増していくような話に惹かれます。
読んだあとふとした瞬間に思い出してしまうような“あとから効いてくる怖さ”を大切にしています。
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