画面に映る女性
結婚後に住み始めた団地の一室で、私は不気味な現象に悩まされていました。
その団地には、夫との二人暮らし。
夫は日中働きに出ているため、昼間は私一人がその部屋で過ごしていました。
住み始めて一週間ほどが経ったある日。
そろそろ買い物に出かけようかと、つけていたテレビを消したときのことでした。
「っひ……!?」
電源を落とし、真っ暗になったテレビ画面。
そこに、知らない女の人の姿が映ったのです。
女の人は、私のすぐ後ろに立っているようでした。
しかし、恐る恐る振り返るも、そこには誰もいないのです。
「嘘じゃない」
それは、一度だけではありませんでした。
女の人は必ず、日中にテレビ画面を消したときに現れます。
夫にその話をしても、真面目に取り合ってくれる様子はありません。
日中、一人寂しく部屋で過ごしている私が、夫に構ってもらいたくて“かわいい嘘”をついているとでも思っているようなのです。
私は次第に、テレビ画面を消さなくなりました。
買い物にいくときや掃除をするとき、昼寝をするとき。どんなときでも、日中はテレビをつけたままにすることに。
そうすればあの女の人の姿を見ることもありませんでした。
安心していたはずだった
その日も、テレビをつけたまま近所のスーパーへ買い物に。
テレビをつけたままにするようになってから、女の人の姿はすっかり見えなくなりました。
しかし安心しきっていた私に、あの恐怖は再びやってきたのです……。
「きゃ……きゃあああああっ!」
買い物から戻り、リビングのドアを開けると、テレビの前にあの女の人が立っていたのです。
テレビ画面は……消えていました。
女の人は、ゆっくりと私を振り返り……
身構える私に向かって、なにかを呟きます。その声こそ届きませんが、あの口の動きは……
“し、ね”
と、繰り返しているように見えたのです。
我慢の限界
その後、私は荷物も持たずに家を飛び出し、夫の帰宅時間まで近くのファミリーレストランで時間を潰しました。
そして相変わらず真面目に話を聞いてくれない夫に対し、「もし引っ越してくれないのなら、実家へ戻る!」と半ば強引に引っ越しを決断させ、数日後にはその団地の部屋を引き払いました。
もちろん、その数日間も私は日中に部屋に戻ることはなく、夫が帰宅するまで外で時間を過ごしました。
あの女の人は一体なんだったのか、今となっては知るよしもありませんが、もう二度とあのような体験はしたくありません。
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。

◆松木あや
ホラーやオカルトが好き。在住する東北の地で、ひんやりとした怖い話を収集しています。
恐怖体験の「おすそわけ」を楽しんでもらえると嬉しいです。
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