揺れる人物
とある夜のこと。
仕事を終えて家に向かっていた私は、道中にある地下通路へと降りていきました。
普段は地上の道を歩いているのですが、その日は通りたい道が工事中。
工事スタッフの誘導の元、道を通ることはできましたが、それもなんとなく面倒で地下通路を通ることにしました。
夜に通るのは少し気味が悪く、普段は避けていた地下通路。
静かな通路内でしたが、少し進んだ先の曲がり角に誰か人がいるようです。
「ん……?」
その人物に近付くにつれ、なんだか違和感を覚えました。
角にいるその人物は、地下通路だというのに歩いている気配がありません。それどころか、“ゆらり、ゆらり”とその場で左右に揺れているようでした。
気味の悪さはありましたが、また来た道を引き返し、地上に戻るのも面倒。
ならば早く通り過ぎてしまおうと、そのままその人物がいる方へと歩を進めました。
︎関わってはいけない
先ほどよりも距離が近付いたことで、その人物の姿がハッキリと見えるように。
どうやら男性のようなのですが下を向いているため、その顔はよくわかりません。
「この人と関わってはいけない」そう思った私は、足早にその人物の横を通り過ぎようとしました。すると……
「っひ……!」
その男性が“ぐるん”とこちらに振り向き、私を見つめるのです。
男性の顔は真っ白で、両目は血走り、口元の動きからなにかを呟いているようでした。
私は叫び出したい気持ちを押し殺し、その場から走り去りました。
そのままその先にある階段を駆け上がり、あとは地上へと抜けるだけ。安堵して階段に足をかけた、その時……
「ああああ……ああああ……」
耳元に注がれた低い声と共に、背後から首に手が回されました。
︎身に覚えのない……
「きゃあああああぁーっ!!」
思わず叫び声を上げ、その場にしゃがみ込む私。
その声を聞いて、たまたま階段近くの地上を歩いていた人が駆け付けてくれました。
「どうしたんですか」と心配するその人に、私は「変な男の人が、今後ろに!」と伝えますが、後ろにはもう誰もいませんでした。
ところが……
「お姉さんそれ、首……大丈夫ですか?」
その人は、首元を指さして私に言いました。
不思議そうな顔をする私に、その人は持っていた手鏡を差し出してくれたのですが、そこに写っていたのは……
「なに、これ……」
首全体をぐるりと囲うようについた、まるで火傷のように爛れた跡。
もちろん、身に覚えなどありません。
しかし不思議なことに、家に着いて恐る恐る鏡を確認すると……その跡は、何もなかったように消え去っていました。
それ以降、地下通路は使っていません。
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。

◆松木あや
ホラーやオカルトが好き。在住する東北の地で、ひんやりとした怖い話を収集しています。
恐怖体験の「おすそわけ」を楽しんでもらえると嬉しいです。
※表示価格は記事執筆時点の価格です。現在の価格については各サイトでご確認ください。