暗い帰り道
これは、僕が就職して間もない頃の話です。
先輩たちが開いてくれた新人歓迎会を終え、僕は暗い夜道を帰っていました。
2週間前に引っ越したばかりのアパートは、職場から徒歩20分の距離。
飲み会をした居酒屋もさほど遠くなく、タクシーに乗るのももったいないと感じた僕は、自宅までのルートを地図アプリで確認しながら歩いていました。
不気味な高架下
“ゴー、ゴー”
車が走るけたたましい音が聞こえて、顔をあげました。
目の前には、壁を流れる茶色い錆びが不気味な高架橋。
明かりが切れかけているのでしょう。
いくつか並んだ電球が“パチン、パチン”と順番に点滅を繰り返しています。
「なんか嫌な雰囲気だな……」とは思いましたが、この道を通らなければ家に帰れないため、僕は仕方なく足を進めました。
“ゴー、ゴー”
高架下に入ると、頭上を走る車の音が反響して、ますます大きく聞こえます。
なぜか背筋が寒く感じ、このまま駆け抜けてしまおうか、そう思った瞬間。
背後から物音が聞こえたのです。
引きずる足音
“ガサ、ズズ……ガサ、ズズ……”
足を引きずりながら、ゆっくりと近づいてくる足音。
「ん?ん?ん?」
老人が言葉を聞き返す時のような、あるいはサルの鳴き声のような、形容しがたい奇妙な声が耳に入りました。
つい先ほどまで、誰かがいる気配などなかったのに。
僕は「後ろを振り向いてはいけない」と直感し、手元のスマートフォンに視線を落としました。
“ゴー、ゴー”
“ガサ、ズズ……ガサ、ズズ……”
体が震え、額には冷汗。
手のひらからスマートフォンが滑り落ちそうになりますが、ここで足を止めたらいっかんの終わりです。
「ん?ん?ん?ん?ん?」
素っ頓狂な声は次第に激しくなり、品定めをするような鋭い視線を背中に感じます。
僕は背後にいるナニかに悟られないよう、歩く速度を上げました。
高架下から出るまで、あと数歩。
安堵
“ゴー、ゴー”
走り抜ける車の音が小さくなり、街灯が並ぶ道の先には民家の明かり。
ふと気が付けば、後ろから聞こえていた不気味な声と足音は止んでいました。
わずか数メートルの高架橋を通り抜けただけなのに、涙が出そうなほどホッとした僕。
このまま走って家に帰ろう、そう思って足を踏み出した瞬間、信じられないほど強い力で肩を掴まれたのです。
「キヅイテルキヅイテルキヅイテルキヅイテル」
ガチガチと歯をぶつけながら叫ぶ声が耳のすぐ近くで聞こえて、僕は気を失いました。
……それからというもの、どこにいても何をしていても、強い視線を感じるのです。
仕事もままならなくなってしまい、結局会社は辞めました。
僕はこのまま狂ってしまうのでしょうか。
その前に、せめて僕が見聞きしたものを誰かに伝えたくて、お話した次第です。
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。

◆底渦
中学生で都市伝説にドハマりし、2chホラーと共に青春を駆け抜けたネット廃人系オカルトライター。
怖い話の収集・考察が趣味です。
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