観光地のトイレ
妻と娘を連れて家族でとある観光地を訪れたときのこと。
「ちょっとトイレ休憩にしよっか」
観光地の敷地内を歩いていると、公衆トイレが目に入りました。
念のため行っておこうと二人に提案し、私は一人男性用トイレへ。
歴史ある観光地のため、トイレは古く寒々しい雰囲気のものでした。
中はシンと静まり返っていましたが、一つしかない個室のドアが閉まっています。
きっと誰かが用を足しているのでしょう。
私も個室を利用したかったため少し待ってみましたが、開く気配がないどころか、なんの音も聞こえません。
「あの……入ってますか?」
遠慮がちに言葉を投げてみましたが、反応はありません。
今度はドアをノックしてみると……
“キィ……”
個室のドアが開きました。
嫌な感覚
中には、誰もいません。
恐らく建付けが悪くて、半端にドアが閉まっていただけだったのでしょう。ノックが振動となり、ドアが開いた。そういったところでしょうか。
最初から無人だったにも関わらず待っていた無駄な時間を悔やみながら個室に入り、ドアを閉めました。
しかしその瞬間、感じたことのない鳥肌が全身を駆け抜けます。
誰かが見ている、そんな気がしたのです。
しかし当然ながら、トイレは個室。誰の姿もなければ、誰かが見ているわけもありません。
なんだか恐ろしくなった私は、そのトイレから出ることに。個室の扉を押し、外へ出ようとしますが……
「あれ……?」
体が酷く重たいのです。思わずその場に倒れ込みそうなほどでしたが、なんとか扉を開けて外へ。
気味の悪いトイレから脱出し、既に外で待っていた妻と娘に声をかけ、その場を後にしました。
思い出に写り込む、不自然な……
その後は観光地で家族団らん、楽しい時間を過ごしました。
まだ少し体のダルさはありましたが、妻や娘の笑顔を見ているとそんなものは吹き飛んでいきます。
しかし帰宅後、その日撮ったたくさんの写真を振り返ると……
「なんだよ、これ……」
私の両肩に“人の手”のようなものが置かれた写真が数枚あったのです。
それは全て、あのトイレから出たあとの写真でした。
更に恐ろしいのは、帰宅後に家の中で撮った写真にも写っていたこと。
あの気味の悪いトイレから、家に連れてきてしまったのでしょうか……。
その後、神社でお祓いをして自己流で塩を撒き、さまざまな手を尽くすことで、体が“すっ”と軽くなりました。
あのときすぐにトイレから出たため、この程度で済んだのでしょうか……。
みなさんも、嫌な予感がする場所からは、すぐに離れることをおすすめします。
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。

◆松木あや
ホラーやオカルトが好き。在住する東北の地で、ひんやりとした怖い話を収集しています。
恐怖体験の「おすそわけ」を楽しんでもらえると嬉しいです。
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