噂の階段
『その階段で転ぶと、幽霊が見えるようになる』
私の通っていた中学校の校舎には、そんな噂のある階段がありました。
なんでも、昔その階段で転んで亡くなった生徒がいるのだといいます。
真相のほどは定かではありませんでしたが、度胸試しとばかりにその階段でわざと転んでみせる生徒も多く、噂を信じている生徒はそう多くはありません。
かくいう私もその中の一人で、ある日の放課後、数人の友人とふざけて噂の階段で遊んでいました。
踊り場のあたりで軽く転んでみせる友人を階段の上から見て、ケタケタと笑っていたときのことです。
「うわっ!!」
すぐ後ろにいた友人の腕が当たり、私は階段の最上段から突き落とされる形で、一気に下まで転がり落ちました。
知らない記憶
派手に転がり落ちた私に、友人たちが駆け寄ります。
「だ、大丈夫……!?」
誤って腕を当ててしまった友人も、顔を真っ青にして心配していました。
しかし、奇跡的に打ちどころも悪くなく、ほとんど軽傷だった私は「大丈夫、大丈夫!」と飛び跳ねてみせます。
友人たちのホッとした顔を見て、「そろそろ帰ろうか」とその場をあとにしました。
その夜のこと。
私は悪夢を見ていました。場所は、あの階段。
数人の生徒に囲まれているようなのですが、どの生徒も知らない人たちでした。
その人たちは私を取り囲んで笑っているのですが、どうにもそれは楽しい時間ではないのです。
私はひどく悲しい気分で、周りの生徒たちが恐ろしくてたまりませんでした。
そして……
「ごめんなさい、ごめんなさい……ごめんな、さい」
私は、一人の生徒に押される形で、あの階段から転げ落ちたのです。
頭からは、大量の血が流れ、意識が遠のいていきます。その間も、私は、なぜか彼女たちに謝り続け……
「うっ、うわああああっ!!」
そこで私は目を覚まし、飛び起きました。
真相
翌日から私は、あの噂の真相を知ることなりました。
誤って転がり落ちた、あの噂の階段。その前を通ると……
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
最上段から転がり落ちる女子生徒の幽霊を、度々目撃するようになったのです。
女子生徒はあのとき見た夢と同じく、転がり落ちながら何度も謝罪を繰り返していました。
私が見た、あの悪夢。あれは恐らく、この階段で亡くなった女子生徒の、最期の悲しい記憶だったのではないでしょうか。
女子生徒は今でもまだこの階段から離れることができず、わけもわからないまま謝り続けているのかもしれません。
これは私の推測ですが、その同じ場所で同じように転がり落ちたことで、今でもそこに置いてけぼりになっている彼女の記憶が私にリンクしたのではないか、そう思えてならないのです。
あの階段の前を通るたび、彼女へ差し伸べられない自分の手を見つめながら、卒業までの時間を過ごしました。
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。

◆松木あや
ホラーやオカルトが好き。在住する東北の地で、ひんやりとした怖い話を収集しています。
恐怖体験の「おすそわけ」を楽しんでもらえると嬉しいです。
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