薄気味悪い空き家
高校を卒業してすぐ就職した私は、小さな不動産屋の営業職として3年目を迎えていました。
不動産屋なので当然ではありますが、「事故物件」というものに関わる機会も少なくはありません。
しかし、私はそういったものには慣れっこでした。事故物件とされるもののほとんどは、心霊現象など起きないのです。
私は、自分が見たこともない「幽霊」などの類は全く信じていませんでした。
ある物件に足を踏み入れるまでは。
その物件は、いわゆる事故物件でした。
昔、無理心中により一家が命を落としたそうです。
長いこと空き家状態だったようですが、私の勤める不動産屋が新たに買い取り、私は写真撮影のために一人でその空き家を訪れました。
霊感のようなものは全く持ち合わせていないですが、入る前からなんだか嫌な予感がしたのです。
周りには住宅も数軒ありましたが、その空き家だけがどこか異質な雰囲気。
他の空き家とどこが違うのかと問われると上手く説明はできませんが、どこかジトッと嫌な空気に覆われていたのです。
浴室に広がる……
玄関を開けると、独特な匂いと埃っぽさが鼻を突きました。
その場で数枚写真を撮影し、薄暗い家の中を足早に進みます。
さっさと終わらせてしまおう、そう考えながらまず辿り着いたのは浴室でした。
脱衣所のドアを開けて中を覗くと、至って普通の風呂場。
ホッと肩を落とし、デジカメのシャッターを押します。
「あれ?」
しかし、撮影した数枚の写真を確認するも、全体がモヤモヤしていて何も映っていません。
気味が悪くなり、後ろへ一歩後退りをしたそのとき。
「っ!」
床が、ぬるりと滑りました。恐る恐る、下を向くと……。
「っう、うわぁああ!」
先ほどまで白かった風呂場の床一面が、おびただしいほどの血で赤く染まっていたのです。
気の狂った父親
転がるようにしてその空き家から出た私は、急いで事務所へ戻りました。
聞くと、当時あの空き家は、父親と母親と3人の子供の5人暮らしだったようです。
父親は神経質な人で、美人な母親の浮気を疑ってはよく怒鳴っていたのだとか。
しかしある日、父親を含む5人全員が風呂場で血まみれの遺体の状態で見つかったそうです。
状況から見て、父親以外の4人は何者かによる刺殺、父親は自殺と見て間違いないため、無理心中を図ったのだろうと。
なぜ、全員が風呂場なのか。
父親には潔癖症の傾向があったらしく、「家を血で汚さないため」全員を浴室で刺殺したのでしょうか……。今となっては、誰にもわかりません。
また、風呂場で撮影したときには何も見えなかった、あの写真。
モヤモヤしていると感じたその正体は、恨み辛みの表情を浮かべた女が、レンズを間近で覗いている顔にも見えるのでした。
※記事に使用している画像はイメージです
※この物語はフィクションです
◆松木あや
ホラーやオカルトが好き。在住する東北の地で、ひんやりとした怖い話を収集しています。
恐怖体験の「おすそわけ」を楽しんでもらえると嬉しいです。
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