カーテン越しの足音
通勤中の事故により入院を余儀なくされた私は、とある病院に来てから一週間が経とうとしていました。
私の過ごす病室は、6床のベッドが並ぶ男性限定の相部屋。夜はプライベート空間を守る間仕切りカーテンを引いて過ごしています。
この病室で私は奇妙な現象に悩まされているのです。
入院初日、事故で慌ただしく過ごした疲れも相まって、私は早々に眠りに落ちていました。
深夜3時。ふと目が覚めてベッドの上でぼーっとしていると、何やら間仕切りカーテンの向こう側で、誰かがヒタヒタと歩く気配がするのです。
なかなか寝付けない相部屋の患者がうろついているのだろうと思い、その夜は気付くと眠りに落ちていました。
感じる視線
誰かが歩くような物音はその後一週間、毎日続きました。
不思議なことに、眠っていてもその音がすると目が覚めてしまい、時計を見るといつも3時を指していました。
ある日、中途半端に閉められたカーテンの隙間から僅かに見えたのは、長い髪の女がゆらりと歩く姿でした。
相部屋の患者と思っていた人物は、どうやら女性のようなのです。
しかし、この病室は男性部屋。
なんだか一気に気味が悪くなった私は、音が聞こえると目をギュッと瞑り、やり過ごすようになりました。
その夜も、3時に目が覚めました。
ヒタ、ヒタと足音が聞こえ始めましたが、女の姿を視界に入れないよう、事前にカーテンはしっかり閉じています。
目を固く閉じ、その時をやり過ごしていると、いつもより随分と早く足音が止みました。
ホッと肩を撫で下ろし、目を開けようとしましたが……。
なんだか、嫌な予感がしました。誰かに見られているような、そんな気が。
私はそのまま朝まで目を開けず、眠れない夜を過ごしました。
笑う女の顔は……
翌日、私は相部屋の一人の男性に、昨夜の出来事を話してみました。
すると男性は、「ああ、あんたにも見えるのか」と言うのです。
男性はこの病室に来て長いらしいのですが、自分も毎晩、女の気配を感じていると。
しかし、同室の者にそれとなく話しても不思議な顔をされるだけで、気配を感じているのは男性一人だけだったようです。
男性もある日、いつもよりも早く足音が止み、ホッとして目を開けたと言います。
すると、間仕切りカーテンから女が顔だけを出し、こちらを見ていました。
その女には眼球がなく、歯が全くない口を大きく開けて“ニタァ……”と笑っていたのだそう。
あのとき、目を開けていたらと思うと、今でも思い出してはゾッとします。
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。
◆松木あや
ホラーやオカルトが好き。在住する東北の地で、ひんやりとした怖い話を収集しています。
恐怖体験の「おすそわけ」を楽しんでもらえると嬉しいです。
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