九州のある地域
九州にある人形集落ってご存知ですか?
はは、知りませんよね。
地元でも知っている人間はほとんどいないでしょうから。
そこは集落というだけあって、分譲住宅のように同じ形の家が並んでいます。
しかし新築の頃から誰一人として人間は住んでおらず、代わりにマネキンが各家に一体ずつ置かれているようなのです。
「そんな馬鹿げた話があるわけない」と思われるかもしれませんが、本当ですよ。
なぜなら僕は、一度だけそこに足を踏み入れたことがあるから。
大学時代、僕はフードデリバリーのアルバイトをしていました。
始めた頃の配達地域は県の中心部のみだったのですが、運営元の事業拡大で僕が通っている大学の地域も対象に。
「これでもっと稼げるぞ」なんて思ったものですけど、意外と大学周辺での注文は少なくて……。
しかしある日、講義を終えて外に出ると、ちょうど町のはずれの方から配達の依頼が入ったのです。
暇だった僕はさっそくその注文を受けて配達に向かいました。
ひとけのない家の群れ
そこは同じような外観の家が数件立ち並ぶ、小さな集落。
しかし、どの家の周囲にも草が生い茂り、人の気配はありません。
何度かマップを確認し、ようやく見つけた目的の家もやはり誰かが住んでいるような雰囲気ではなかったのです。
「イタズラか……?」そんな考えが脳裏をよぎったものの、僕はアプリに記載されていた固定電話らしき番号をタップしました。
“……プルルルル、プルルルル”
家の中からかすかに着信音が聞こえます。
「電気が通っているのか……」
ひとりごとを溢しながら、僕はインターフォンを押しました。
「あのー、すいませーん。ハンバーガーのお届けにうかがったんですけどー」
玄関に立つもの
“ガチャン”
鍵の開く音が聞こえました。
しかし、誰かが出てくる気配はありません。
僕はドアノブに手をかけて、おそるおそる家の中を覗きます。
「すいま、……ヒッ!!」
危うく、ハンバーガーの入った紙袋を落としそうになりました。
玄関から一段上がった廊下の上に、裸の男性を模したマネキンが立っていたからです。
ファッションモデルのようにポーズを決めたそのマネキンの手には、なぜか現金が乗せられています。
「え、え、あの、すいません!!」
混乱した僕は紙袋をその場に置き、代金をひったくってその家を後にしました。
背後でガチャンと鍵の閉まる音が聞こえたのは、決して幻聴ではないでしょう。
詳細不明の集落
その後、僕は県庁の職員になりました。
あの人形集落は、どうやら県の管理で電気代などが支払われているようです。
それぞれの家に一体ずつマネキンがあることまでは資料から判明したのですが、誰がどんな目的で設置したものなのか、なぜあの家からフードデリバリーの依頼がきたのか、詳細は不明。
なにより、あんなに不気味な集落なのに、地元では一切ウワサになっていないことが不思議でなりません。
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。

◆底渦
中学生で都市伝説にドハマりし、2chホラーと共に青春を駆け抜けたネット廃人系オカルトライター。
怖い話の収集・考察が趣味です。
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