見慣れた校舎に、知らない制服の女の子
「あれ?まだ誰か残ってる……?」
期末試験の最終日。
本来ならば昼休みの時間帯。
教室には誰もいなかった。
友人たちはすでに帰り、学級委員だった私はプリントをまとめてから廊下に出た。
いつもはにぎやかな校舎が、嘘みたいに静まり返っている。
掃除の音も、チャイムも聞こえない。
まるで、時間だけが止まったように感じた。
そのとき、ふと視線の先に気配を感じる。
廊下の突き当たり。
逆光の中に、誰かが立っている。
うつむいたまま、ぴくりとも動かない。
「誰か残ってたんだ」と思いかけて、私は違和感に気づく。
(あの子の制服、見たことないな。転校生かな?)
見慣れない制服が印象的だった。
風もないのに揺れるセーラー服
私はそっと足音を忍ばせながら、廊下を進んだ。
一歩進むたびに、彼女も少しだけ距離を取る。
風もないのに、制服の裾が少しなびく。
顔は見えない。長い髪が覆い隠しているからだ。
しかし、なぜか視線だけは合っているような気がした。
一瞬、ふわっと浮いて見えた。
――床に、足がついていない。
ゾクリとした。
意思に反して、体が勝手に近づいていく。
胸がザワザワするのに、足が止まらない。
白いセーラーの襟には、黄ばみと泥のようなシミがついていた。
古いデザイン。時代遅れの型。
どう見ても、現行の制服ではない。
「……いつの制服?」
その瞬間、彼女がくるりと背を向けた。
廊下の奥――壁しかない方向へ、音もなく進んでいく。
そしてそのまま、スッと壁の中へ、消えていった。
“まだ残っている”制服
狐につままれたような気持ちのまま、職員室に辿り着いた私は、担任にそれとなく尋ねた。
「廊下で、白いセーラー服の子を見かけたんですけど……」
担任は一瞬、顔をこわばらせた。
「……白いセーラー服?」
「はい。顔は見えなかったんですけど、なんだかすごく古い感じの制服で……」
すると、近くにいた年配の先生がふっと口を開いた。
「その話、まだ残ってたんだね。10年くらい前にも、同じような目撃があったよ」
「え?」
「この校舎が建て替わる前、やっぱり誰もいないはずの廊下で、昔の制服を着た子が立っていたって……」
その制服は、20年以上前に使われていたそうだ。
建て替え後も、目撃され続けているという。
「大昔の話だけど……当時は、今なら大問題になるようないじめもあったらしい。あまり詳しくは言えないけどね」
私はもう、なにも言えなかった。
あの日、昼間の光の中に確かに見えた“あの子”の制服の汚れを、今も思い出してしまう。
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。

◆斎 透(さい とおる)
noteにて短編小説を執筆中の、犬と暮らすアラサー女子です。
やるせない夜にそっと寄り添うような文章をお届けしています。
幼い頃から、オカルト好きな母と叔母の影響で、不思議な話に夢中に。
「誰でも一つは、背中がひんやりする話を持っている」をモットーに、
ゾッとするけど、どこか温度のある物語を綴っています。
美容やキラキラした話題に疲れた夜、よければ一編、覗いてみてくださいね。
●note:https://note.com/sai_to_ru
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