雨戸の閉まった家
外を歩いている時に、なんとなく目に留まる建物ってありませんか?
私は毎日の通勤時に通りかかる、2階建ての古びた一軒家がどういうわけかとても気になっていて……。
その家は、道路に面した2階の窓の雨戸がいつも固く閉ざされているのです。
朝も夜もひと気がなく、窓から漏れる明かりを見たこともありません。
きっと、長い間空き家なのだろう。
そう思いつつも、まるで視線が吸い寄せられるかのように私は毎日その家を眺めていました。
窓辺の女性
ところがある日の朝、いつものようにその家を見上げると、閉まっているはずの2階の雨戸が開いていたのです。
「あれ?」
間抜けな声を上げ、目を凝らす私。
室内に吹き込むように大きく揺れたカーテンの奥には、ひとりの女性がこちらに背を向けて立っています。
なんだ、住んでいる人がいたのか。
そう思ったのも束の間、すぐに疑問がわきました。
彼女は窓際にじっと立ちつくしたまま、微動だにしないのです。
いったい何をしているのだろう。
私は歩きながら、女性の後ろ姿を見つめます。
“ちりん、ちりん”
不意に前方でベルの音が聞こえ、私はハッと正面に視線を向けました。
違和感
自転車が颯爽と横を通り過ぎると同時に、頬をかすめたわずかな風。
その時、私はある違和感を覚えたのです。
今日は風ひとつない、とても穏やかな朝……。
それなのに、あの窓についたカーテンは大きく揺れ続け、室内にまで吹き込んでいました。
私は足を止め、おそるおそる振り返ります。
しかし、いつのまにか雨戸はぴったりと閉じられていて、風に揺れるカーテンも、女性の姿も見ることはできません。
「見間違いかな……」
諦めて足を踏み出しかけたその時、ポケットに入れていたスマートフォンが震えました。
画面を見れば、1枚の写真が添付されたメール。
……その画像は、先ほどの窓辺に立つ女性を背後から至近距離で撮ったものでした。
戦慄
「ヒッ……!」
この写真は誰が撮ったのか、どうしてこのアドレスを知っているのか、そんな疑問より先に、私の脳には恐怖が突き抜けます。
……なぜなら、カメラに背を向けた女性は宙に浮いており、その長い首には天井から垂れた紐がしっかりと巻き付いていたからです。
“ブー、ブー”
立ち尽くす私の手の中で、新たな受信を知らせる通知音が鳴り響きます。
絶対に見てはいけない。
そう直感した私は、震える手でスマートフォンを握りしめながら、必死にその場から逃げ出しました。
後日、人づてに聞いた話があります。
やはり、あの家は10年ほど前から空き家になっているそうで、過去に住んでいた女性は2階の寝室の窓際で首を吊って亡くなっていたのだといいます。
あの日、私の前に姿を現した彼女が、いったい何を伝えたかったのかは分かりません。
それ以来、私は外出の際には地面だけを見つめ、決して余計なものを目にしないように心がけているのです。
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。

◆底渦
中学生で都市伝説にドハマりし、2chホラーと共に青春を駆け抜けたネット廃人系オカルトライター。
怖い話の収集・考察が趣味です。
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