【ゾッとする怖い話】「あの、僕ひとりですよ」地方の旅館で起きた恐怖体験

Lifestyle

独身を謳歌する僕が撮影旅行のために訪れた、地方の小さな旅館。
素泊まり同然の料金なのに豪華な夕食が出て、頼んでもいない朝食が用意され、見送りには見知らぬ人までが並ぶ。
「最高の旅行だった」と帰路につく“僕”。
この恐怖、あなたにわかるだろうか――。

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最後の鉄路の夜

古い旅館出典:stock.adobe.com

独身を謳歌する鉄道マニアの僕は、地方の廃線間近の列車を撮るため、一泊の撮影旅行に出た。
撮影がメインなので宿には金をかけず、民泊のような古びた旅館を予約している。

期待していなかったが、着いてみると意外にも豪華な料理が並んだ。
素泊まりと大差ない料金で、刺身に天ぷら、煮物まで並んでいる。

「せっかくのお客様ですから」

そう言って女将は笑顔で勧めてくれた。

上機嫌で部屋に戻ると、なぜか敷布団が二組並べて敷いてある。
「あの、僕ひとりですよ」と声をかけたが、女将はにこやかに「これは決まりなので」と繰り返すばかりだ。

二人部屋だからだろう、と無理やり納得し、布団に入った。

隣の布団

深夜、ふと目が覚めた。隣の布団から、視線を感じたのだ。

暗闇に目を凝らすと、そこに黒い瞳が二つ、じっとこちらを見ている。
反射的に立ち上がって電気をつけると、布団はきれいなままで誰もいない。

気のせいかと自分に言い聞かせて再び布団に入ると、夢を見た。
長い髪の女性が隣の布団からするりと入ってきて、僕の腕に身を寄せる夢。

肌はひどく冷たいのに、なぜか嫌ではない。
体の重みも感じたが、それが現実か夢かはわからなかった。

愛妻の待つ家へ

旅館の軒先出典:stock.adobe.com

翌朝、朝食は頼んでいなかったはずだが、女将が「せっかくですから」と声をかけてきた。
昨夜と同じく、信じられないほど豪勢な朝ごはんが並ぶ。

恐縮しつつ食べ終え、チェックアウトしようと玄関に向かうと、旅館の人間だけでなく、近所の人らしき人々までが入り口にずらりと並び、「ありがとうございました」と笑顔で頭を下げてくれた。

不思議なほど丁寧なもてなしに、胸が温かくなる。

「いい旅だったな」と思いながら駅へ向かう道すがら、ふと頬をなにかが撫でた。
黒い髪が数本、絡みついていた。昨夜の夢を思い出し、ゾッとする。

だが、考えるのはやめた。
家で待つ黒髪の妻への土産話にこの出来事は含めない方がいい、そんな気がした。

※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。

斎 透(さい とおる)

◆斎 透(さい とおる)

noteにて短編小説を執筆中の、犬と暮らすアラサー女子です。
やるせない夜にそっと寄り添うような文章をお届けしています。
幼い頃から、オカルト好きな母と叔母の影響で、不思議な話に夢中に。
「誰でも一つは、背中がひんやりする話を持っている」をモットーに、
ゾッとするけど、どこか温度のある物語を綴っています。
美容やキラキラした話題に疲れた夜、よければ一編、覗いてみてくださいね。
●note:https://note.com/sai_to_ru

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斎 透(さい とおる)

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幼い頃から、オカルト好きな母と叔母の影響で、不思議な話に夢中に。
「誰でも一つは、背中がひんやりする話を持っている」をモットーに、
ゾッとするけど、どこか温度のある物語を綴っています。
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