おばけ団地
これは、母から聞いた恐ろしい話です。
母が通っていた小学校の校区には、全500戸ほどを有するそれなりに大きな団地がありました。
しかし、老朽化が進み、安全性にも問題があることから、当時から空室が目立つ状態だったそうです。
古ぼけて暗い雰囲気の団地は、子供たちや一部の大人から「おばけ団地」という不名誉なあだ名で呼ばれていました。
それでも、クラスの数人はおばけ団地から学校に通っていて、よく親から「団地の子と関わっちゃダメよ」と言われていたそうです。
理由はよく分かりませんが、その不気味なあだ名も相まって、私の母も団地に住むクラスメイトとは距離を置くようにしていました。
転機が訪れたのは、3年生のクラス替え。
これまであまり関わりのなかった、団地に住むKちゃんと仲良くなったのです。
Kちゃんは不思議な話や怖い話をたくさん知っていて、母はすっかりその話のトリコになってしまいました。
「うちの団地には、インジ様っていう神様がいるんだよ」
ある日、Kちゃんがこんなことを教えてくれたそうです。
「インジ様?どんな神様なの?」
「見ればわかるよ。明日休みだし、うちに泊まりに来る?」
興味津々母は大喜びで、おばけ団地に潜入だ!と意気込んでいました。
這いまわる影
翌日、Kちゃん一家にあたたかく迎えられた母。
お人形遊びをしたり、Kちゃんの家族と一緒に夕食をたべたり、楽しく過ごして夜10時。
突然、Kちゃんのお父さんが家中の電気を消し始めました。
「このおうちでは、夜に電気をつけてはいけないんだ。夜中にトイレに行くときも、決して明るくしてはいけないよ」
暗闇のなかから、Kちゃんのお父さんの声が聞こえます。
その後、Kちゃんに連れられて寝室に行くと、カーテンを少しだけ開けて、外の景色を見せてくれました。
しかし、途端に恐怖で固まってしまった母。
団地の真ん中で明るく輝く電灯の周りを、5mはありそうな大きな人影がぐるぐると這いまわっているのです。
「あれがインジ様。明かりを付けると寄ってくるからダメなの」
静かに話すKちゃん。
その時、ちょうど向かいの部屋の電気がパッと明るくなりました。
「あっ……!A君の家!」
「え!?」
A君はクラスメイトの大人しい男の子。
人影がヤモリのようにすばやく壁を伝い、A君の家だという部屋へと吸いこまれ、ふっと消えます。
「今のはなに……?」と尋ねようとすると、Kちゃんがケタケタと笑い出しました。
母はもう、そのすべてが怖くて怖くて。
布団に潜り込み、一睡もできないまま朝を迎えたそうです。
教室を包む笑い声
月曜日、学校へ行くとA君の机に花瓶が置かれていました。
「昨晩、A君が亡くなりました」
担任の先生が沈痛な面持ちで話します。
耐えきれないほどの恐怖が体を支配し、ぎゅっと目をつむった瞬間。
Kちゃんを含む、団地に住む子供たちがワッと一斉に笑い出し、「A君はバカだなあ」「でも、すぐ帰ってくるよ」と口々に言うのです。
先生が怒鳴っても笑い声は収まらず、その日、団地の子たちは親が迎えにきて早退。
学校全体を巻き込む大事になったそうです。
結局、Kちゃんがインジ様と呼んだ影は何だったのでしょうか。
団地が取り壊された今も、地元の人はあの土地とインジ様を恐れています。
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。
◆底渦
中学生で都市伝説にドハマりし、2chホラーと共に青春を駆け抜けたネット廃人系オカルトライター。
怖い話の収集・考察が趣味です。
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