電話ボックスの中の女性
私の家から会社までの通勤ルートには、電話ボックスがあります。
ある夜、仕事帰りに家までの道を歩いていると、電話ボックスの前に若者が集まっているのが遠目から見えました。
若者たちは地面に座り、いわゆる“たむろ”している状態。
しかし、なんだか妙なのです。
公衆電話ボックスの中にも、人が立っていました。一瞬、若者の仲間の一人なのかとも思いましたが、はしゃいでいる様子でもありません。
若者たちとはまた違った大人しい雰囲気の女性で、とても彼らの仲間の一人には見えませんでした。
さらによく見ると、若者の一人がドアを背もたれにして座っているではないですか。
きっと、女性は公衆電話を使用し終えたものの、若者たちが邪魔で外に出られずにいるのでしょう。
不憫に思った私は、若者たちに注意してやろうと、足早に近付きました。
「ちょっと、きみたち……」
見えていない
気付くと、女性はボックスから出てきていました。
あれ……?どうやって出たんだろう?不思議に思って足を止め、立ち止まっていると……
女性は、一人の若者の背中に覆い被さりました。
そして、そのまま若者に重なるようにして、消えていったのです。
若者たちには、女性が見えていないようでした。
そのまま何事もないように談笑を続けている若者たちを横目に、気味が悪いと感じた私は足早に家路につきました。
後日、その電話ボックスの前を通ると、花が手向けられていました。
あの夜、この場所で若い男性が車に跳ねられ、亡くなったそうです。
それがあのとき女性が覆い被さっていた若者なのかは、わかりません。
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。
◆松木あや
ホラーやオカルトが好き。在住する東北の地で、ひんやりとした怖い話を収集しています。
恐怖体験の「おすそわけ」を楽しんでもらえると嬉しいです。
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