田舎の電車
その日、友人との飲み会を終えた私は、駅のホームでうたた寝しながら電車を待っていました。
昼間でもそれほど利用者が多くない田舎の駅ですから、夜も更けた今、当然私以外に人の姿はありません。
30分、いや1時間ほどホームで待ったでしょうか。
“キイィィ……”
ようやく電車がやってきました。
ふらつく足取りで乗り込んだ車内は、人っ子ひとりいない貸切状態。
機嫌を良くした私は、長く伸びるシートの中央に腰掛けます。
いま考えると、いくら田舎の路線だとはいえ、人が全くいないなんておかしいと分かるのですが。
車内の異変
ゆっくりと電車が動きだします。
ガタンゴトン、心地よい振動に、私は再び夢のなかに入っていきました。
長い時間が経ったような気がします。
ふと目を覚ますと、大きな異変に気が付きました。
明るかったはずの車内が、真っ暗になっているのです。
そして、闇のなかを走り続ける電車は、いつまで経っても次の駅に到着する気配がありません。
「しまった、車庫行きの電車にでも乗ったのかな?」と寝ぼけた頭に焦りが広がります。
慌ててスマートフォンの時刻を確認すると、そこには午前2時半の表示。
「え……?こんな時間に動いている電車があるのか……?」わけが分からず戸惑っていると
“ギイイイイ!ドンッ!!”
突然、電車が急ブレーキをかけ、何かにぶつかったような衝撃が走りました。
白い手
投げ出された体もそのままに、暗い車内を見渡す私。
“バン、バン、バン、バン、バン!!”
次に目に飛び込んできたのは、無数の白い手が電車の窓を叩いている光景でした。
“バン、バン、バン、バン、バン、バン、バン、バン、バン、バン!!!!”
いつの間にか、天井からもたくさんの人が電車を叩いている音が聞こえてきます。
すでに恐怖と混乱で涙を流していた私ですが、次の瞬間、呼吸が止まりそうになる体験をしました。
「降りますかァ……?」
機械的な音声の車内アナウンスが私に問いかけてきたのです。
「何か答えなきゃ、連れていかれる……」
話すこともままならず、何度も首を振っていると、そこでぷつんと意識が途切れました。
目を覚ますと、いつものように自宅のベッドの上にいたのです。
いったい、私はどうやって家まで帰ってきたのでしょうか。
あの恐怖体験は夢の中の出来事だったのでしょうか。
あれ以来、私はひとりで電車に乗れません。
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。
◆底渦
中学生で都市伝説にドハマりし、2chホラーと共に青春を駆け抜けたネット廃人系オカルトライター。
怖い話の収集・考察が趣味です。
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