カーテンに隠れる生徒
私が教師になって、一年目のことでした。
新米教師の私は、配属された小学校で慣れない仕事に奮闘する毎日。
しかし、大好きな子供たちの成長に関われるこの仕事に、とてもやりがいを感じていました。
放課後、各教室の見回りに行くのも新米教師の仕事です。
とある教室の前に立ち寄ると、風で膨らむカーテンの下に女の子の下半身が見えました。
お友達と残って、かくれんぼでもしているのでしょうか。
ほとんどの教室を見て回ってきましたが、その割にはどこにも他の生徒はいませんでした。
「おーい、そろそろ帰るよー」
教室のドアを開け、私は女の子に声をかけました。
誰もいない
「あ、あれ……?」
ガラガラ、とドアを開けて再びカーテンに視線を向けるも、女の子の姿はありませんでした。
私がドアを開ける一瞬の隙に、どこかへ隠れてしまったのだろうか?不思議に思って、教室内を見回りました。
教卓の中を覗き込んだとき……
「あっ……!」
視界の端に、誰かが走り去りました。
さっきの女の子でしょうか。きっと、かくれんぼをしている途中で友達が帰ってしまったのでしょう。
そんなときに私がこの教室を訪れ、女の子は私を驚かそうと、イタズラ心で遊んでいるつもりなのかもしれません。
「ほらー、もうおしまい。先生と一緒に帰りますよー」
教室内に呼びかけるも、返事はありません。
そのとき、“ガタガタッ”と音が。驚いて振り返ると、掃除用具を入れる古びたロッカーが揺れていました。
なんだ、ここに隠れたんだ。子供の微笑ましいイタズラに気持ちがほぐれ、私はその掃除用ロッカーへ向かって歩き出します。
「みーつけた。ほら、早く出ておい……」
ロッカーのドアを開けようとしたとき、私は気付きました。
この教室のロッカーは建付けが悪く、ドアがなかなか開かないことが多かったのです。
イタズラで入った生徒が閉じ込められてしまっては大変だと、つい数日前に職員会議の議題に上がり、使用禁止になったばかりでした。
その証拠にドアを引いてみましたが、鍵がかかっていました。
捨てられない理由
職員室へ戻った私は、先輩の教師に先ほどの出来事を話しました。
「あぁ、見たんだね」
先輩が言うには、あの教室では度々、放課後に女の子が目撃されているようです。
あの教室の掃除用ロッカーだけがボロボロなのも、一番古いロッカーだから。なんでも、学校創立当初からあるものなのだとか。
何度も買い替えようと議題には上がったようなのですが、あのロッカーを撤去しようとすると、教師によくないことが起きるというのです。
「よくないことってなんですか?」
「んー?ま、俺は、気付いたら屋上にいたね。あと少しで落ちるとこだったみたい」
その後、その教室には、古いロッカーと新しいロッカーが並んで置かれるようになりました。
※記事に使用している画像はイメージです
※この物語はフィクションです
◆松木あや
ホラーやオカルトが好き。在住する東北の地で、ひんやりとした怖い話を収集しています。
恐怖体験の「おすそわけ」を楽しんでもらえると嬉しいです。
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