廊下に動く影
週末に地元で用事があった私は、数か月ぶりに実家に帰省していました。
現在、実家は母と妹の二人暮らし。
妹は友達と出掛けていたため、家にいたのは私と母の二人だけでした。
「ちょっとお母さん買い物行ってくるから、留守番よろしくね」
リビングのソファでくつろいでいると、母が出掛けていきました。
見飽きたテレビを消し、スマホをぼんやり眺めて暇を持て余していると、廊下のほうからなにやら“ゴソゴソ”と音が。
そして、曇りガラスになっていてるリビングのドアから、なにか動く影がぼんやりと映ります。
私は母が忘れ物で引き返してきたのだと思い、声をかけました。
「お母さん、なんか忘れ物ー?」
不気味な正体
廊下にいる母に声をかけましたが、返事はありません。
「ちょっとー?聞こえてるー?」
ソファから身を乗り出し、再び母に声をかけます。
それでも返答がないので不思議に思い、ドアの方へ近付くと……
「……えっ?」
曇りガラス越しに映るのは、母ではありませんでした。
その存在をはっきりとは確認できないのですが、四つん這いになったなにかが、ゆっくりとこちらに進んでいるようなのです。
私は気が動転し、一歩、また一歩と後ろに下がったところでソファに躓き、尻餅をついてしまいました。
痛むお尻を押さえながら、顔を上げると……
“キィィ……”
廊下とリビングを隔てているドアが、ゆっくりと開きます。
「ひ……っ!」
恐怖で腰が抜けた私は、その存在から目が離せません。
それは、とても痩せ細った、しわくちゃの老婆のようでした。
老婆は怯える私を見るなり、ニタリと不気味な笑みを浮かべ、
「ハハハハハハ!ハーハハハハハハハ!」
歯のない口を大きく開け、狂ったように笑い始めたのです。
私は恐ろしさで体が硬直し、声も出ません。
さらに老婆はそんな私を嘲笑うかのように、ゆっくりとこちらに向かって這ってくるのです。
老婆の笑い声が家中に響く中、いつの間にか私は恐怖で気を失っていました。
この家、実は……
「お姉ちゃん、お姉ちゃん!」
目が覚めると、帰宅した妹が私を揺すり起こしていました。
飛び起きた私は妹に抱き付くと、先ほどまでの出来事を全て話しました。
「やっとお姉ちゃんも見たんだね」
妹は、昔からあの老婆はこの家に現れるのだというのです。
小さい頃、私や両親に何度か話してくれたようでしたが、誰も信じてくれなかったのだとか。
また、老婆が現れるのはいくつかの条件が重なったときなのだと教えてくれました。
一つは、家に一人きりのとき。
一つは、テレビなども消え、家が静かなとき。
もう一つは……
「お墓参りに、行けてないとき……?」
我が家は幼い頃に父を亡くしていて、少し離れた場所に父が眠るお墓があるのです。
現在、地元を離れて暮らしている私は、そのお墓へとなかなか足を運べていませんでした。
妹は定期的に足を運んでいるようですが、少し期間が空いてしまうとあの恐ろしい老婆を見てしまうことがあるようです。
お墓参りをすることで、父が私たちを守ってくれているのでしょうか。
その日以降、帰省するときにはお墓参りを欠かしていません。
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。
◆松木あや
ホラーやオカルトが好き。在住する東北の地で、ひんやりとした怖い話を収集しています。
恐怖体験の「おすそわけ」を楽しんでもらえると嬉しいです。
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