カウンセリング室にて
Aさんが私のカウンセリングを受けに訪れたのは、つい2週間前のことでした。
「あの、変な話をしてもいいですか……?」
若者らしい筋肉質な体とは対照的に、クマの目立つ、やつれた顔が印象的なAさん。
精神科医からの診断書によると、彼には妄想の症状や、記憶が混濁し取り乱してしまう症状があるそうです。
「もちろん、なんでもおっしゃってください」
私がそう返事をすると、Aさんは鼻から大きく息を吸い、重い口を開きました。
「大抵の人はそうだと思うんですけど、俺は生まれたときから、霊感なんてものは持ち合わせていません。幽霊を見たこともなければ、有名なパワースポットに行っても全然効果が分からないくらいで……」
思いがけない話の内容に驚きつつも、手が震えているAさんの話を頷きながら聞きます。
「だからあのとき肝試しに行ったのも、ただの悪ノリというか、“怖い雰囲気を味わいたい”という軽い気持ちだったのですが……」
男性患者の話
先月、大学時代の悪友から久しぶりに連絡がありました。
「もうすぐ卒業して5年だろ。区切りもいいし、久しぶりに会わない?」
ちょうど彼女にフラれたばかりで、暇を持て余していた俺はすぐにその誘いに乗り、同じく仲の良かったもうひとりの友人にも声をかけました。
当日、居酒屋に集まった俺たちは、思い出話に花を咲かせ、気が付けば時刻はすでに深夜1時。
「あ、もう終電終わってるわ。どうする?カラオケでも行く?」
「そういえばこのまえ面白い話を聞いたんだよ。ここから車で1時間くらい行ったところにある山の中のトンネルにさ、出るんだって、幽霊」
その話をした友人がたまたま車で来ていたこともあり、俺たちは暇つぶしがてら、幽霊が出るというトンネルに向かいました。
「なんか出たらどうする?」
「俺、おまえらのこと置いて逃げるわ」
「おい、置き去りにするなよ!」
このあと、恐ろしいことが起きるとも知らずに、俺たちは高揚した気分でそんな冗談を言い合っていました。
山の中のトンネル
それから1時間車を走らせて、ようやく噂のトンネルに到着しました。
「おー、確かに雰囲気あるな」
「まじでなんか出そう……」
「なんだよ、ビビってんのかよ」
トンネルの手前に車を停め、俺たちは歩いて中へと向かいます。
「このトンネル、かなり古いよな」
「な、年季入ってる」
「出口も真っ暗だし、どこまであるのか分かんないな」
草木も眠る丑三つ時。
恐怖心を紛らわすために、適当な会話を続けます。
しかし、入り口から数分歩いたところで俺たちは思わず足を止め、息を飲みました。
トンネルの壁が途切れ、突如現れた3平方メートルほどの広いスペース。
その中央に、大きな鳥居が立っていたのです。
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。
◆底渦
中学生で都市伝説にドハマりし、2chホラーと共に青春を駆け抜けたネット廃人系オカルトライター。
怖い話の収集・考察が趣味です。
※表示価格は記事執筆時点の価格です。現在の価格については各サイトでご確認ください。