トンネルの鳥居
「え、なんだよこれ」
「気持ちわる……」
「こんなとこになんで鳥居があるんだよ」
はじめこそ恐怖と驚きで盛り上がっていたのですが、徐々に口数は減り、その鳥居から目が離せなくなりました。
“引き込まれる感覚”とでもいうのでしょうか。
黙りこんでその鳥居を眺めていると、突然友人が俺の肩を叩きました。
「どうしたんだよ、さっさと行こうぜ」
その一言で、呆然としていた自分にようやく気づきました。
「そうだな……!」
「はやく町に戻って飲みなおそうぜ」
「お前ら、ビビりすぎ!」
引きつった笑いを浮かべ、早足で来た道を戻ります。
車内の異変
「あの鳥居以外は、普通のトンネルだったな!」
何事もなかったことに安堵しながら、ドアに手をかけ、車に乗り込みます。
しかしその瞬間、おかしなことに気が付きました。
「え、3人だったよな、俺ら。なんで4人いるんだ……?」
静まり返った車内。
お互いの顔を見合わせても、全員知っている顔です。
「え、え、どういうことだよ!」
「絶対3人だったじゃん!!」
窓の外は真っ暗な闇。
木々が揺れる音や野生動物の不穏な鳴き声が、さらに恐怖心を煽ります。
パニックに陥った俺たちですが、誰が増えたのか分からない以上、それを車から追い出すこともできません。
仕方なく、俺たちは4人で山を下りました。
その晩以降、気持ち悪くて友人たちとは連絡を取っていません。
Aさんの苦悩
ここまで一気に話したAさんは、ふうっと息を吐いたあと、体の力が抜けたようにうなだれました。
「先生、俺は頭が変になってしまったんでしょうか。増えた奴が誰なのか分からないなんて、自分で言っていてもおかしな話だってことはわかってます。
でも、あの晩のことを思い出すと頭がぼーっとして、飲みに誘ってくれたのが誰だったのか、俺は誰に声をかけたのか分からなくなるんです。
やっぱりはじめから全員いた気がするし、全員あとから増えた奴のような気もする。間違いないのは、トンネルに行く前は3人だった、ということだけ」
私が言葉をかける隙が無いほど、Aさん畳かけるように話し続けます。
「それで最近は、自分自身のことも疑ってしまうんです。
実際、あの日のことだけじゃなくて、これまでの人生や仕事に関しての記憶も曖昧で。
俺は、幻の記憶を植え付けられただけの、存在してはいけない人間なのかもしれません」
頭をかきむしり、呼吸を乱すAさん。
やはり彼には、記憶の混濁と妄想の症状があるらしい。
私はAさんに今後の治療方針について説明し、次回の予定も取り付けました。
しかし数日後、彼は投身自殺をしました。
彼の口の中には、「俺は誰だ?」という、クシャクシャに丸めたメモ書きが詰められていたそうです。
そして、Aさんの死に呼応するように、県内でAさんと同い年の男性が2人、相次いで自殺。
彼らは、共に肝試しをした友人だったのでしょうか。
「増えた1人」が彼らの妄想の産物でないとしたら、いったい今、どこでなにをしているのでしょうか。
一介のカウンセラーである私に、それを調べる術はありません。
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。
◆底渦
中学生で都市伝説にドハマりし、2chホラーと共に青春を駆け抜けたネット廃人系オカルトライター。
怖い話の収集・考察が趣味です。
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