大学時代の飲み会
大学時代、私にはAという友人がいました。
彼は明るく楽しい性格で、いつも人の輪の中心にいるようなタイプ。
長期休みを間近に控えた3年生の夏、Aは前期テストの慰労会として彼女のY美や数人の友人を集めて飲み会を開きます。
私も誘われていたものの、その日はたまたまバイトのシフトが入っており、参加できませんでした。
「行かなくてよかった」と心から思う反面、「私が参加していれば運命を変えられただろうか」といまだに考えてしまいます。
廃墟の写真
飲み会の翌日、私は浮かない顔のAに話しかけられました。
「なあ。この写真、ちょっと見て」
「なにこれ、廃墟?」
Aのスマートフォンには、朽ちかけた民家の写真が表示されています。
話を聞くと、どうやら彼らは酔っぱらった足で近くの廃墟を訪れ、肝試しをしたそうなのです。
そこは物が散乱しているものの、さほど荒らされた形跡のない民家。
怖がりながらもひと通り見てまわり、最後に外から室内を撮影したというのですが……。
「Y美がさ、この障子の間から男がこっちを覗いてるって騒ぐんだけど、お前にも見える?」
スマホの画面に触れ、一か所を拡大するA。
暗く湿っぽい室内はたしかに不気味ですが、なにかが写りこんでいる様子はありません。
「いや、なにも写ってないと思うけど……」
「だよなぁ……」
釈然としないものの、しだいに話題は夏休みに計画している旅行の話へと移り変わっていきました。
Y美の異変
しかし、事態は私たちが思っていたよりも深刻でした。
廃墟を訪れてからというものの、Y美が「常にだれかの視線を感じる」と言って、自宅マンションに引きこもるようになってしまったのです。
彼女の様子を心配して、自分の家にも帰らず、つきっきりで看病していたA。
夏休みに入ってからも私はときどき、Aとメッセージのやり取りをしていたのですが、「本当にごめん、旅行にはいけないかもしれない」という言葉を最後に連絡が取れなくなってしまいました。
Y美はそんなに具合が悪いのだろうか……。
私はAのことも気になって、彼女の家を訪ねました。
“ピンポーン”
チャイムを鳴らしても人が出てくる気配はありません。
「Y美ちゃーん、お見舞いに来たんだけどー」
軽くノックすると、小さな音を立ててドアが開きました。
「あれ?鍵、かかってなかったのか……。おーい、Aー?」
私は靴を脱ぎ、リビングへと向かいます。
数回訪れたことのあるその部屋には、不自然なほどの静寂が流れていました。
信じがたい光景
「あ……、ああ……」
リビングの前にたどり着き、私は思わず尻餅をつきました。
窓の開いたベランダで、Y美が首を吊って冷たくなっていたのです。
私は駆け付けた警察に事情を説明し、消息不明のAについても話をします。
刑事さんは重要参考人としてAを捜索するといい、その日のうちに彼は見つかりました。
あの民家の廃墟で、めった刺しにされた状態で……。
結局、その事件は痴情のもつれでY美がAを殺害し、後を追うように自身も命を断った、として処理されましたが、それはありえないことだと私は知っています。
だって、首を吊った彼女は、目玉がくりぬかれて無くなっていたから。
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。

◆底渦
中学生で都市伝説にドハマりし、2chホラーと共に青春を駆け抜けたネット廃人系オカルトライター。
怖い話の収集・考察が趣味です。
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