深夜の雨漏り
結婚を機にとある団地へと引っ越してきた私は、ある現象に悩まされていました。
“ぴちゃん、ぴちゃん、ぴちゃん”
それは、夜中になると聞こえる水の音。
台所や風呂場の蛇口を確認するも、水が出ている様子はありません。
むしろそれは、夫婦で寝ている寝室から聞こえているようなのです。
「雨漏りかなんかじゃない?」
夫が言う通り、それはまるで雨漏りのような音。
しかし、上の部屋は誰も住んでいない空室でした。
水道の配管が経年劣化でもしているのだろうかとも考えましたが、部屋のどこを見て回っても、水が垂れている様子はないのです。
目に見える被害がないのであれば、管理人へも連絡しようがありません。
ほとんど毎晩のように聞こえるその音に不快感はありましたが、私たち夫婦はひとまず様子を見ることにしました。
水音と重なる、うめき声……
“ぴちゃん、ぴちゃん、ぴちゃん”
その晩もまた、寝室の中で聞こえるあの音。
それに加えて、今日は……
「うぅ……うぅぅ……ひいいぃ……」
男性の悲痛なうめき声までも聞こえてくるのです。
さすがに気味が悪くなった私たち夫婦は、顔を見合わせて布団から起き上がりました。
“ぴちゃん、ぴちゃん、ぴちゃん”
滴るような水音の中、夫が手探りで電気スイッチまで足を伸ばします。すると……
「な、なんだ?床が滑る……」
そう不思議そうに呟き、部屋の電気が灯されると……
「っ、ぎゃ、ぎゃああぁああっ?!」
寝室が一面、血の海に染まっていました。
水音の正体
しかし、その光景は一瞬のこと。
電気を点け、二人で叫び声をあげた途端、そこはまた普段通りの部屋に戻っていました。
これは後に知ったことですが、上の空室では以前、一家による“刺殺事件”が起きていたとのこと。
そう、あの水の音の正体は、上の部屋から漏れ落ちる“大量の血の音”だったのかもしれません。
一瞬の出来事ではありましたが、私たちは確かにこの目で、二人揃ってあの光景を目の当たりにしたのです。
真っ赤に染まった部屋の天井、そこを伝って床を汚す大量の血液……。
あの晩から一ヶ月ほどはその部屋に住み続けましたが、その間もあの音は毎晩のように鳴り続けました。
さすがに耐え切れなくなった私たちは、引っ越しを急いでその団地を後に。
今もあの部屋に住人がいるかはわかりませんが、同じ恐怖を味わっている人がいるのではないかと、心配に思うことがあります。
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。

◆松木あや
ホラーやオカルトが好き。在住する東北の地で、ひんやりとした怖い話を収集しています。
恐怖体験の「おすそわけ」を楽しんでもらえると嬉しいです。
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