不動産屋の見回り
大学生の頃、私はとある不動産屋のアルバイトとして働いていました。
仕事内容は、事務作業から物件案内のサポートまでさまざま。その日は、先輩に連れられて管理物件の見回りに出ていました。
「おまえはこの物件、初めてだったか?」
次の物件に着くなり、先輩がイタズラな笑みを浮かべてそう言います。
なんでも、この物件は過去に事件があった「事故物件」なんだとか。
怪奇現象といわれるものも起こるようで、夜中に女性の声や物音がするだとか……。
しかし、実際に先輩はその現象を体験したことがあるのかと尋ねると、「ない」とのこと。つまりは、ただのウワサ話程度の類なのでしょう。
「脅かさないでくださいよ」などと笑い合いながら、私は先輩とその物件の中へと入っていきました。
ふざけた代償
中に入ると、そこはごくごく普通の和室のアパートでした。
「そこで殺されてたみたいだぞ」
先輩がおもむろに、私の足元の畳を指さしました。
私が驚いてその場を退けると、先輩が笑います。なんだか悔しかった私は、「全然平気ですよ」とその場に寝そべってみせたのです。
それを先輩がケラケラと笑うものだから、調子に乗った私はそのままそこでゴロゴロと転がったり、あろうことか死んだふりをしたり……今思うと、本当にふざけた真似をしていました。
変化が訪れたのは、その晩でした。
家でゆっくり過ごしていると、どこからともなく女性のうめき声が聞こえるのです。
思い当たることは、一つしかありません……。
恐ろしくなった私は頭まで布団を被って、固く目をつぶります。
しかし……
“ヒタ……ヒタ……ヒタ……”
部屋の中を歩く、足音が聞こえてきました。
探す足音
足音は、部屋の中や布団の周りを縦横無尽に歩いているようでした。
まるで、私のことを探しているかのように……。
“ヒタ……”
しかし、しばらくするとピタリと止む足音。
掛け布団を少しばかり上げ、恐る恐る部屋の中を見てみようとすると……
「……ひっ!」
布団のわずかな隙間から見えたのは、青白い足。
その足はこちらを向いて立っていて、私の入っている布団をじっと見つめているようでした。
慌てて布団をしっかりと被り直すと、そのままの状態で私は一夜を過ごすことに。
朝になり、また恐る恐る部屋を確認してみましたが……あの足は見当たらず。それ以降、怪奇現象が起きることもありませんでした。
あのとき勢いよく布団から出ていたら……そう考えると今でもゾッとする体験です。
事故物件のみならずいわくつきの場所では、行動に気を付けましょう。
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。

◆松木あや
ホラーやオカルトが好き。在住する東北の地で、ひんやりとした怖い話を収集しています。
恐怖体験の「おすそわけ」を楽しんでもらえると嬉しいです。
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