差出人不明
ある日、自宅の玄関ポストに投函されていた一通の手紙。
封筒を見るに、差出人は不明。
宛先はここの住所でしたが、自分ではない他人の名前が書かれていました。
恐らく、前の住人の名前なのでしょう。
私はこのアパートに引っ越してきて間もないため、直近まで住んでいた住人宛の郵便物が届くことは容易に想像できる話でした。
しばしその郵便物を見つめ、どうしたものかと考えるも……
「ま、あとで考えるか」
なんとなく面倒に思ってしまい、手紙はそのまま玄関へ置いておくことにしました。
届き続ける手紙
翌日、またしても同じ封筒が玄関ポストに。
相変わらず差出人は不明、宛先は昨日届いたものと同じ名前でした。
「もしかして、急を要する内容なのだろうか……」封筒を開けて中身を確認することも考えましたが、これは他人宛の手紙。
勝手に開けることもためらてしまい、考えることが面倒になった私は、またしても手紙を玄関に放置することに。
しかし翌日も、そのまた翌日も、手紙が届いたのです。
さすがに何事かと気になった私は、一通だけ開けて中身を確認してみることにしました。
もしかしたら、差出人の連絡先が中に書かれているのかもしれません。
これ以上ここに手紙を出し続けても意味がないこと、そして勝手に手紙を読んでしまったことを謝ろうと、封筒を開けて中の便箋を取り出します。
“ぽさっ……”
折り畳まれた便箋から、なにかがすり抜け、床に落ちる音。
その正体は……
「……ぎ、っぎゃあぁあっ!?」
束になって切り落とされた、長い黒髪。
あまりのことに、腰を抜かしてその場にへたり込む私。
しかし手にしていた手紙に意識が行き、恐る恐るその内容を確認すると……
「あなたをずっとあいしています。あいしています。しぬまでずっと、しんでもずっと、あなたをずっとあいしています。わたしといっしょにしんでくれますか?」
それはまさに、狂気に満ちたラブレターでした。
あまりの恐怖に心臓が早鐘を打ち、ふと手紙から顔を上げた、そのとき。
「っう、うわああぁあっ!?」
いつの間にか、目の前に、見知らぬ女性が立っていました。
女性の髪は、手紙に入っていた髪と同様、長い黒髪。
しかしその髪は、ところどころザックリと切り落とされたかのように、バラバラの長さで……
「てがみ、かってに、よんだあ?」
女性は、その不揃いな髪の隙間から不気味な笑みを浮かべ、私に小首を傾げました。
強すぎる想い
目を覚ますと、私は玄関で倒れていました。
「っひ……」
意識を取り戻し辺りを見回すと、傍には、あの“手紙”が。
私はすぐにその数通の手紙をかき集め、神社へ持ち込み、お焚き上げをお願いしました。
神社の方にお話ししたところ、恐らくあの女性は“死霊”ではなく、“生霊”。
前の住人へ執着する女性の念が、手紙の中の髪の毛を通して、形として現れたのではないかといいます。
しばらく手紙は届き続けましたが、その都度お焚き上げをお願いしていたところ、ある日から手紙が届くことはパタリとなくなりました。
今でも思い出すとゾッとする体験です。
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。

◆松木あや
ホラーやオカルトが好き。在住する東北の地で、ひんやりとした怖い話を収集しています。
恐怖体験の「おすそわけ」を楽しんでもらえると嬉しいです。
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