深夜の管理業務
私は当時、とあるビルの管理人をしていました。
勤務時間帯は深夜。24時で帰るスタッフと交代後、そのまま朝までビルの管理業務にあたります。
設備のチェックなどは主に日勤のスタッフが行っているため、私はたまの巡回以外はほとんどの時間を管理室で過ごしていました。
もちろん、ただ座って時間を潰しているわけではなく、監視カメラ映像を見ることが私の主な仕事。
そんなある日、いつものように管理室で画面を見て過ごしていたときのことです。
「ん?」
ビルの正面あたりを映すカメラに、女性が立っていることに気が付きました。
突然現れたのは
いつの間に、そこにいたのでしょうか。
ぼーっとしていたためか、私はその女性が敷地内に入ってきたことに全く気が付きませんでした。
普通に考えればビルの関係者だと思うのですが、女性はビルの中に入るわけでもなく、ただその場に立っているだけ。
私はそのとき画面から離れた場所に座っており、女性の顔がよく見えませんでした。
見知った顔であるかどうか確認するため、画面に近付き、女性の顔をよくよく見てみると……
「っ……?!」
画面の向こうの女性は、真っ直ぐに私の目を見ていました。
︎こちらを見る女性
画面越しに目が合っている、そんな気味の悪い感覚に身の毛がよだちます。
しかしなぜか女性から目を離すことができず、私は女性と目を合わせ続けていると……
「えっ、え……?」
女性は私と目を合わせたまま、その場から“すぅっ……”と消え去ったのです。
目の前で起きた信じられない現象に驚いていた、そのときでした。
“バンバンバンバンバン!”
突然、管理室のドアを勢いよく叩く音が聞こえたのです。
︎ドア越しの恐怖
驚きのあまり、椅子から転げ落ちる私。
そこで私は気付いたのです。
管理室のドアに、鍵をかけていない……。
そう思ったのも束の間、ドアは鈍い音を立ててゆっくりと開いていきます。
私は急いでドアまで走り、体当たりをする勢いで開きかけたドアを閉めると、震える手で鍵を施錠。
そして恐る恐る、管理室前を映すカメラ映像に視線を送ると……
「ひいっ……!!」
管理室の前には、またもやカメラをじっと見つめる、女性の姿が。
女性はボソボソと口を動かしているようでしたが、その口の動きは……
「い、れ、て、い、れ、て」
と、繰り返しているようなのです。
その後しばらくすると、女性の姿はまた突然消えてしまいましたが、私は日勤のスタッフが出勤してくるまで管理室から出ることができませんでした。
もしあのとき、ドアが全部開いてしまっていたら……。
恐ろしさのあまり、その仕事はすぐに辞めてしまいました。
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。

◆松木あや
ホラーやオカルトが好き。在住する東北の地で、ひんやりとした怖い話を収集しています。
恐怖体験の「おすそわけ」を楽しんでもらえると嬉しいです。
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