祖父の葬儀
先月、長く病を患っていた祖父が亡くなりました。
本人の希望により、最後は自宅で最愛の祖母に見守られながら旅立ったそうで、きっと祖父は幸せだった思います。
……息を引き取る、その瞬間までは。
遠方に住む私たち一家が葬儀場に着いたのは、お葬式が始まる30分前。
親戚たちに挨拶をして会場に入ったその瞬間、私は異様な光景に目を疑いました。
本来なら祭壇にあるはずの遺影がなく、その代わりに「N川T夫」と祖父の名前が書かれた紙が額縁に飾られていたのです。
「え、なにこれ?どういうこと?」
私が小声でたずねると、父は低い声で答えました。
「ウチではこうしないとダメなんだ。遺影を飾ると歪むんだよ、写真の顔が……」
思い返してみれば、祖父の家には立派な仏間があったのに、部屋のどこにも遺影が飾られていなかったのです。
写真が歪む……。
私は背筋に寒いものを感じ、「そうなんだ」と返すことしかできませんでした。
見知らぬ男性
その日の夜、私の夢の中には、白髪交じりの髪に眼鏡をかけた、知らない髭の男性が現れました。
彼は自分のことを「貴女のおじいさまの代わりに来た」と説明し、こんなことを言うのです。
「おじいさまは、せめてあなたの部屋にだけでも写真を飾ってほしいとおっしゃっています」
「で、でもお父さんがダメだって……」
渋る私に、彼は悲しそうな声で言います。
「このままでは自分の存在が忘れ去られてしまう。大切な孫のあなたにだけは覚えておいて欲しい、とのことです」
祖父を不憫に思った私は遺影の代わりに、昔家族で撮った集合写真を部屋に飾ることに決めたのです。
伸びた首
それからしばらく経って、ふと写真立てを見た私はゾッとしました。
集合写真の中の祖父の顔だけが苦悶の表情にかわり、カメラがブレたように首が長く伸びたからです。
私はこれを飾っておくどころか、持っていることも怖くなって、ネット上で見つけた霊能力者のもとへ相談に行きました。
そして、この一連の話をしたのですが、彼は「ああ、だからか」と一言。
「あなたのうしろに、首をくくった男女がたくさん立っていますよ。その中にはあなたの夢に現れた、眼鏡をして髭を生やした初老の男性もいます」
戸惑う私に霊能力は続けます。
「あなたの先祖は、彼らからよほど強い恨みを買ってしまったようですね」
……私はそれ以降、死ぬが恐ろしくてたまらないのです。
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。

◆底渦
中学生で都市伝説にドハマりし、2chホラーと共に青春を駆け抜けたネット廃人系オカルトライター。
怖い話の収集・考察が趣味です。
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