ぼんやり浮かぶ、大きなシミ
これは、とあるアパートに一人暮らししていたときの話です。
アパートに入居したのは、半年ほど前のこと。
しかし今から1か月ほど前に、私はあることに気が付きました。
「こんなシミ、あったっけ……?」
台所の天井に“ぼんやり”と浮かぶ大きなシミ。
その存在に、今の今まで全く気が付かないのもおかしな話です。
(まぁ、台所の天井なんてそれほどじっくり見上げるものでもないし、
きっと今まで目に入っていなかっただけなのだろう)
シミを見つけた当日はそう思い、大して気にもとめませんでした。
︎視線
シミは、日を追うごとにだんだんと濃くなっていく気がしました。
なんのシミだろうという不思議な気持ちはありましたが、能天気な性格も相まって、あまり深く考えてはいませんでした。
ある日。
台所で、やかんのお湯を沸かしていたときのこと。
なぜかふと、誰かの視線を近くに感じるような感覚がありました。
当たり前ですが、部屋中をキョロキョロと見渡しても、誰もいません。
そして恐る恐る、あの天井のシミを見上げてみたのですが……
「……ふぅ」
そこには、いつも通りのシミがあるだけ。
安堵からため息が漏れます。
しかし、ひとつだけ気がかりが。
「……あれ?」
日に日に濃さを増していくシミは、今ではほとんど真っ黒になっていました。
真っ黒のシミが……どこか“じんわり”と湿っているような?
︎ここにいてはいけない
翌日のこと。
その日は、台所で夕食の準備をしていました。
またもや突然、誰かの視線を近くに感じたのです。
前回とは比べ物にならないほどの、強烈な感覚。
得体の知れない、なにか“ゾクリ”としたものが、全身を駆け抜けるようでした。
調理中の手を止め、その場に固まる私。
「ここにいてはいけない」と、肌で感じたのです。
とにかくこのまま、着の身着のまま、部屋を出よう。
とにかくここから離れよう。
台所を離れて玄関へと向かった、そのときでした。
玄関に置かれた、大きな全身鏡。
小さなこの部屋には似つかわしくない、立派なサイズ。
それは、部屋全体を映すには申し分ない大きさで。
全身鏡越しに見えたのは……
「ぎっ、ぎゃっ……、ぎゃああぁああぁああ?!」
台所の天井に浮かぶ、大きな真っ黒のシミ。
そのシミの真ん中に……能面のように薄ら笑う、不気味な女性の顔が飛び出していました。
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。

◆松木あや
ホラーやオカルトが好き。在住する東北の地で、ひんやりとした怖い話を収集しています。
恐怖体験の「おすそわけ」を楽しんでもらえると嬉しいです。
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