森に囲まれたヴィラ
久しぶりに連休をとり、都会から車で数時間の森の中へ向かった。
予約していたのは新築の貸別荘。
冷蔵庫には豪華な食材が用意されていて、庭でバーベキューもできる。近所に人影はなく、誰にも会わないまま静かに過ごせる理想の環境だった。
到着したのは薄暗くなってきた夕方。
辺りが真っ暗になる前に、荷物を置いて別荘の周りを散策することにした。
鬱蒼とした道
別荘の敷地を出てすぐの道は舗装されていたが、両側は鬱蒼とした木々に囲まれていた。
木々の枝が風に揺れ、葉が擦れる音がする。遠くで鳥が鳴いたかと思えば、すぐに静寂が戻る。
数分歩いたところで、背後から“コツ、コツ”と足音が聞こえた。しかし、振り返っても誰もいない。
再び歩き出すと、また同じ間隔でついてくる。
胸騒ぎを覚えながら進むと、道端に片方だけのスニーカーが落ちていた。
その先には色褪せたボール。遊ぶ子どもなど、この森にはいるはずがない。
背筋が冷え、引き返そうとしたが、歩いたはずの距離が合わない。
戻っているつもりなのに、森が同じ景色を繰り返し見せてくる。
居てはいけない土地
不安に駆られて振り返ると、森の奥に無数の人影が立ち並んでいた。
細い木々の間から、黒い影が一斉にこちらを見ている。
夢中で走り出し、気がつけばヴィラの前に戻っていた。
安堵しかけたそのとき、背後から何かが近づく音が再び響いてきた。
急いで鍵を開け、別荘に駆け込む。
新築の匂い、明るい室内に胸を撫で下ろし、広いリビングのカーテンを閉めようとしたとき、気づいてしまった。
大勢の黒い影が、ぼんやりと外に立ち、室内を覗き込んでいることを。
朝まで恐怖に耐え、明かりをつけたまま一睡もできなかった。
そしてようやく思い至った。
近年、外国人オーナーによって新築ホテルや別荘が次々と建てられている。
美しい自然が手つかずで残っていたのに、長い間開発されなかったのには──必ず理由がある。
人が踏み込んではならない土地。開けてはならないパンドラの箱。
そうした禁足地は、今もなお、この国に確かに存在しているのだ。
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。

◆斎 透(さい とおる)
noteにて短編小説を執筆中の、犬と暮らすアラサー女子です。
やるせない夜にそっと寄り添うような文章をお届けしています。
幼い頃から、オカルト好きな母と叔母の影響で、不思議な話に夢中に。
「誰でも一つは、背中がひんやりする話を持っている」をモットーに、
ゾッとするけど、どこか温度のある物語を綴っています。
美容やキラキラした話題に疲れた夜、よければ一編、覗いてみてくださいね。
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