空っぽの団地
管理会社に勤めていたことがあります。
集合住宅の入退去の手続きや共用部分の管理などが主な仕事でした。
空き部屋が増えた団地は定期的に巡回も行います。
ある団地では建て替えが決まっていて、住民は全員退去済みでした。
当然、敷地内の遊具も使われていません。
錆びたすべり台と、雑草だらけの広場。
子どもの声なんて聞こえるはずのない場所です。
遊んだ跡
巡回担当の社員から、ある日こんな話を聞きました。
「すべり台の砂が掘り返されてんだよね」
すべり台の下の砂場が、毎朝えぐれているというんです。
まるで、何回も遊んだ後のように。
別にそのままにしたっていいんですが、彼はなんとなく、それを足で均していたんだそうです。
最初は猫か野良犬かと思ったそうです。
でも、足跡とか排泄物とか、動物らしい痕跡がありません。
どうも人間の子どもが実際に遊んだような跡なんです。
防犯カメラ
近所の子どものいたずらかと思って、「立入禁止」のコーンを遊具の前に置いたこともありました。
しかし、彼が巡回する夕方には遊んだ跡は見つからない。
夜中に悪さをしているやつがいるのかもしれないと。
「大人なら防犯カメラに映ると思うんだけどなあ……。まさかすべり台をすべりに毎晩来るやつもいないと思うんだけど」
不法侵入かもしれないと、まだ動いている防犯カメラを確認しました。
夜通し録画されている映像を一緒に見ます。
しかし、人影はありません。
朝まで何も映っていないのに、夜が明けて日が当たるとすべり台の下の砂だけが崩れているんです。
「カメラ壊れてる?それか、やっぱなんか動物が住みついてる?」
そう思って別の日も確認しましたが、結果は同じでした。
最後の巡回
解体工事が始まる前日、最後の巡回へ行きました。
もう見慣れた景色です。
でも、その日はすべり台の上に、小さな赤い靴が一足だけ揃えて置かれていました。
誰かの忘れ物かと思って近づいた瞬間、建物の奥から「もう帰るよ〜」という女性の声が聞こえます。
反射的に2人で振り返りましたが、もちろん誰もいません。
翌日から解体が始まりました。
団地はもうありません。
あの日、ずっと遊んでいた子どもを誰かが迎えに来たんじゃないかと思っています。
※この物語はフィクションです。
※この記事に使用している画像はイメージです。

◆味醂
子どもの頃から怖い話が好きで、ホラー小説やネット怪談など、文章作品を中心に親しんできました。
映像作品の痛そうな表現や急に驚かせる演出は少し苦手ですが、想像がふくらむ怖さや、日常の違和感が少しずつ不穏さを増していくような話に惹かれます。
読んだあとふとした瞬間に思い出してしまうような“あとから効いてくる怖さ”を大切にしています。
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