幼い頃の秘密基地
子どもの頃、とくに仲のいい友達数人と山奥にある廃屋を秘密基地にしていました。
学校が終わるとお菓子や漫画を持ち寄って遊んだり、皆で床に寝そべって宿題に取り組んだりしていた記憶があります。
両親には危ないから山に入るなと言われていたので、もちろん秘密にしていました。
ただ、不思議なことにいつからそこへ行かなくなったのか全く覚えていません。
大人になってから友達と昔話をしたときにも、いい思い出として秘密基地が話題になりました。
でもみんな「いつの間にか行かなくなった」という、釈然としないところで記憶が終わっています。
あれだけ毎日のように遊んでいた、私たちにとって特別な場所だったのに、最後の日のことは誰も覚えていないのです。
思い出の地に足を踏み入れると……
先日、久しぶりに地元へ帰った際にあの廃屋が気になり、記憶を頼りに足を運ぶことにしてみました。
山道は昔よりも荒れていましたが、建物は老朽化が目立つものの取り壊されたりなどはしていません。
中へ入るといつかの壊れた玩具や埃をかぶった本など、当時の面影も残っています。
懐かしさからしばらく中を見て回っていると、古い棚の奥に何枚かの原稿用紙が挟まっているのを見つけました。
何故か、その紙に吸い込まれるように手に取ってしまいました。
一番上には、子どもの字で「はんせいぶん」と書かれています。
「かってにはいってごめんなさい」
「もうここにはきません」
「ぜったいだれにもいいません」
そんな不気味な文章が書かれた原稿用紙が、複数あります。
それぞれ筆跡が違うものたちを見ているなかでひとつが目に留まり、さっと血の気が引きました。
その原稿用紙に書かれているかなり特徴的で独特な『は』の文字は、何度練習しても上手く書くことができないと嘆いていた幼い頃の友人の書き方そのもの。
つまり、これは幼い頃の私達が書いたものなのでしょうか?
「ごめんなさい」
「にどときません」
「ぱぱとままにもいいません」
震える手で書いたのだろうと察せられるがたがたの字を見ても、何があったのか欠片も思い出せません。
背筋に冷たいものを感じながらも原稿用紙をめくっていくと……
「もうおうちにかえしてください」
そう書かれているものも、ありました。
急にここにいてはいけない気がして急いで原稿用紙を元あった棚に戻し、逃げるように山を下りました。
……友達には、話していません。
今でもあそこで何があったのかは思い出せません。
ただ、私たちはあの秘密基地に飽きて、自然と行かなくなったわけではなかったようです。
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。

◆さしすせそそぎ
怪談や都市伝説、モキュメンタリー作品が好きで日頃からさまざまなホラーコンテンツに触れています。不気味な余韻が残る物語や「読まなければよかった」と思いながらも続きが気になってしまうような怖い話をお届けできればと思っています。
特に、人の悪意や心理が生み出す恐怖を描いた作品や読み終えたあとにもう一度振り返りたくなるような意味が分かると怖い話、ひんやりとした読後感が印象に残る物語が好きです。
※表示価格は記事執筆時点の価格です。現在の価格については各サイトでご確認ください。

