いつものお墓参りの「異変」
子どもの頃から、お盆になると家族でお墓参りにいってました。
実家から少し離れた古い墓地で、いつも父と母、祖母と一緒に訪れていたんです。
墓石を掃除し、花や線香を供えて帰り道にあるうどん屋さんで昼ごはんを食べるのがお決まりの流れ。
私にとっては物心ついた頃から続いている、ごく当たり前の習慣でした。
ある年、いつものように墓石を掃除している最中、ふと疑問が浮かびました。
誰も知らない
「そういえば、これって誰のお墓なの?」
先祖の墓だと勝手に思い込んでいましたが、よくよく考えてみると誰かからそう教えられた記憶はありません。
父は私の方を見ると、目を丸くしながら手を止めました。
「……誰のだっけ?」
父の表情は困惑そのものといった様子で、どうやら本当にわからないようです。
その場ですぐに母にも聞いてみましたが、首を傾げるだけ。
「まあ、おばあちゃんなら知ってるでしょ」
母はそう言いながら祖母を見ましたが、祖母は花を切り揃えながら困った顔をするだけでした。
「さあ、誰だったかねえ……」
背筋が寒くなりました。
誰の墓なのか家族の誰も知らないのに、私たちは毎年ここへ来ている。
父も母も祖母も、私も。今まで一度も不思議に思ったことがない。
そんな奇妙な事実に直面して気味が悪くなった私は、改めて墓石を確認しました。
汚れを落としながら刻まれた文字を読み、妙なことに気づいたんです。
名字が違う。
うちの親族には一人もいない苗字に、私は今この瞬間まで気づいていませんでした。
帰宅後、私はいろんな親戚に電話して、何気ない日常会話の体裁をとりながら謎の苗字について探りを入れました。
しかし、その苗字に心当たりがある人は一人もいなくて、墓が誰のものなのかはわからず終い。
その日の夜の食卓は、わずかに空気が重かったことを今でも鮮明に覚えています。
母からの電話
そして、翌年。
お盆が近づいた頃に、母から電話がありました。
用件は恒例の墓参りの日程についてです。
何の疑問もなく予定を確認して電話を切り、それから気づきました。
母も私も、今年もあの墓へ行くつもりになっていたのです。
誰の墓なのか、知らないのに。
今はこうしてその事実に恐怖していますが、墓参りの当日にはまた何事も無かったように、当然のことのように私たちはいつものお墓に向かうのでしょう。
今の今まで、あんなに衝撃的だった墓のことをすっかり忘れていたのだから。
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。

◆味醂
子どもの頃から怖い話が好きで、ホラー小説やネット怪談など、文章作品を中心に親しんできました。
映像作品の痛そうな表現や急に驚かせる演出は少し苦手ですが、想像がふくらむ怖さや、日常の違和感が少しずつ不穏さを増していくような話に惹かれます。
読んだあとふとした瞬間に思い出してしまうような“あとから効いてくる怖さ”を大切にしています。
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