落とし物
マンションの管理人をしています。
そこは築30年ほどの、ごく普通のマンションでした。
仕事はいろいろありますが、意外と多かったのが落とし物の管理です。
鍵やハンカチ、子どものおもちゃ。雨の日には傘もよく届きました。
住人の方が拾って管理人室に持ってきてくれることもあれば、私が巡回中に見つけることもあります。
ある朝、いつものように出勤すると、管理人室の受付カウンターに見慣れないものが置かれていました。
黒い、小さな位牌でした。
その下にメモが一枚。
「502号室前に落ちていました」
誰かが拾って置いていったようでした。
位牌を落とすなんてことあるかなあとは思いましたよ。いたずらかなと。
名前も刻まれていたので、ひとまず502号室を訪ねてみることにしました。
「なんでここに?」
502号室には、一人暮らしの年配の女性が住んでいました。
インターホンを鳴らして事情を話し、位牌を見せます。
「え?え?なんで?」
すると、女性の顔色が変わります。
亡くなったご主人の位牌だということでした。
「でも、仏壇に置いてあって……。外になんか持っていかないですよ」
でも、502号室の前に落ちていたらしいと伝えると、女性は部屋の中へ戻っていきます。
しばらくして出てきた女性は、さらに青ざめていました。
「ないです。仏壇に」
朝、お線香をあげたときには確かにあったそうです。
それから一度も外出していないし、家には女性しかいません。
気味が悪かったものの、それ以上確かめようもないんですよね。
とりあえず私は位牌を女性に返すしかありませんでした。
返したはずなのに
それから数日後。
出勤すると、また受付カウンターにあの位牌がありました。
見間違えるはずもありません。
下には、前と同じようにメモが置かれていました。
今度は、「3階の階段に落ちていました」と書いてあります。
すぐに502号室へ持っていくと、女性は位牌を見るなり、「なんで……?」と眉を寄せます。
「誰か、部屋に入ったんじゃないですか?」
そう聞いても、玄関も窓も鍵はかかっていたというんです。
女性はかなり怖がっていましたが、とりあえずその日も位牌を持って帰りました。
そのあと、位牌は何度か管理人室に届けられました。
「2階の廊下に落ちていました」
「1階エントランスにありました」
毎回、同じようなメモと一緒です。
ある時、妙なことに気づいたんです。
落ちている場所が、だんだん管理人室に近づいていたことに。
管理人室
そしてある朝。
出勤すると、管理人室の前に一枚の紙が落ちていました。
「管理人室前に落ちていました」
位牌はありません。
管理人室は施錠されています。
なんだか、嫌な予感がしたんです。
鍵を開けて中に入ります。
受付カウンターの内側。
私がいつも座っている椅子の前に、あの位牌が置いてありました。
※この物語はフィクションです。
※この記事に使用している画像はイメージです。

◆味醂
子どもの頃から怖い話が好きで、ホラー小説やネット怪談など、文章作品を中心に親しんできました。
映像作品の痛そうな表現や急に驚かせる演出は少し苦手ですが、想像がふくらむ怖さや、日常の違和感が少しずつ不穏さを増していくような話に惹かれます。
読んだあとふとした瞬間に思い出してしまうような“あとから効いてくる怖さ”を大切にしています。
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