静かなマンションに響く奇妙な音
私が以前住んでいたのは、古いマンションの最上階にある角部屋でした。
築年数は経っていましたが、日当たりがよく、隣人にも恵まれていて、周囲の生活音もあまり気になりません。
最上階なので上の階を気にする必要もなく、静かに過ごせるところが気に入っていました。
住み始めて数か月が経った頃、妙な音で目が覚めたのです。
コン、コン。
窓を叩くような音です。
最初は風で何かが当たったのだと思いましたが、翌日もほぼ同じ時間に音がしました。
コン、コン。
ベッドから窓を見ると、カーテンは閉まったまま。
ここは最上階です。
ベランダの外に誰かが立てる場所などありません。
偶然で片付けるのは、もはや無理がありました。
それでも、窓の外に何があるのかは怖くて確認できず、その日は布団をかぶって朝まで過ごしました。
翌朝、明るくなってから窓を見ると、ガラスの外側に薄い手形が残っていたのです。
さすがに気味が悪くなり、誰かに話せば少しは気持ちが落ち着くかもしれないと思い、大家さんや同じマンションの住人に相談してみることにしました。
すると、その話を聞いたひとつ下の階に住む女性が、驚いた顔をしました。
「それ、うちも前にありましたよ」
上の階へ移動する音
女性の部屋でも、以前、夜中に窓を叩かれることがあったそうです。
ただ、何日か音が続いたあと、いつの間にか聞こえなくなったのだとか。
さらに別の住人に尋ねると、その人も同じ経験をしていました。
似たような話が出てくることに、私はますます恐ろしくなりました。
普段は交流のない住人にも話を聞いて回ると、やがて気味の悪い事実が判明したのです。
窓を叩くような音が聞こえていたのは、全て角部屋でした。
1階から最上階にある私の部屋まで、音は下から上へと上がっていくように「移動」していたのです。
1階の角部屋に住む人が最初に音に気づいたのは、約1か月前のこと。
その音が聞こえなくなると、次は2階、その次は3階……と、まるで何かが階段を上るように、音は上の階へと移っていきました。
音の謎
そのことを知った日の夜。
また窓から音がしました。
コン、コン。
無視していると、やがて音は止まり、それ以来、窓を叩かれることはなくなりました。
住民や大家さんとはその後も情報を共有していましたが、それからは奇妙な音の噂もぱったりと途絶えました。
安心していいはずなのに、どうしても気になることがあります。
1階から順番に上がってきたのなら、ここが最後です。
最上階までたどり着いたあと、あれはどこへ行ったのでしょうか。
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。

◆さしすせそそぎ
怪談や都市伝説、モキュメンタリー作品が好きで日頃からさまざまなホラーコンテンツに触れています。不気味な余韻が残る物語や「読まなければよかった」と思いながらも続きが気になってしまうような怖い話をお届けできればと思っています。
特に、人の悪意や心理が生み出す恐怖を描いた作品や読み終えたあとにもう一度振り返りたくなるような意味が分かると怖い話、ひんやりとした読後感が印象に残る物語が好きです。
※表示価格は記事執筆時点の価格です。現在の価格については各サイトでご確認ください。

