父の謎の習慣
実家には、昔からほとんど使われていない部屋があります。
物置にしているわけでもなく、中には古い棚と小さな机があるだけ。
私が子どもの頃から、そこで誰かが生活していた記憶はありません。
ただ、父にはひとつ妙な習慣があったんです。
毎晩寝る前になると、ある部屋の扉に必ず鍵をかけるのです。
そして朝になると鍵を開けるという奇妙なルーティンを、1日たりとも欠かさず続けていました。
「なんで鍵をかけるのか知らないけど、誰も使わない部屋なら、ずっと鍵をかけておけばいいのに」
以前そう言ったことがありますが、父は「夜だけでいい」と答えるだけでした。
理由を尋ねても、教えてくれません。
父がいない実家での生活
先日、父が体調を崩し、数日間入院することになりました。
母はすでに亡くなっているため、その間は私が実家に戻り、入院中の父を手助けすることに。
入院前、父から何度も念を押されました。
「寝る前に、あの部屋の鍵だけは絶対にかけろ」
ここまで徹底するのはさすがに気味が悪いと思いましたが、それで父が安心するならいいかと、深く考えずに了承しました。
最初の数日は言われたとおり、毎晩鍵をかけてから就寝していました。
しかし、仕事で疲れて帰宅した日、鍵をかけるのをすっかり忘れ、そのまま眠ってしまったのです。
鍵をかけ忘れた翌朝
翌朝。
寝室から出た瞬間、異変に気づきました。
家中の扉が開いていたのです。
トイレも浴室も、押し入れも、台所の戸棚まで。
昨夜は閉まっていたはずの扉が、片っ端から開け放たれていました。
そして、例の部屋だけは閉まっています。
嫌な予感がしながらドアノブを回しましたが、扉は開きません。
鍵がかかっていたのです。
昨夜、私は確かに鍵をかけていません。
念のため父に電話し、昨夜のことを話しました。
怒られると思っていたのですが、父はしばらく黙ったあと、安堵したように深い息をひとつ吐き出しました。
「……中に戻ったならいい」
思わず「何が?」と聞き返しましたが、父は答えません。
「今夜からは忘れるなよ。それと、鍵は今のうちに開けておきなさい」
それだけ言って電話を切りました。
その日以降、父の退院を待ちわびる一方で、こんな状況でひとりにしないでほしいという恐怖も感じていました。
やがて父は無事に退院し、今はまた実家でひとりで暮らしています。
鍵をかけ忘れたあの夜、何が起きたのかは今もわかりません。
あの日の奇妙な出来事は、私と父の間で、不自然なほど何もなかったことになっています。
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。

◆さしすせそそぎ
怪談や都市伝説、モキュメンタリー作品が好きで日頃からさまざまなホラーコンテンツに触れています。不気味な余韻が残る物語や「読まなければよかった」と思いながらも続きが気になってしまうような怖い話をお届けできればと思っています。
特に、人の悪意や心理が生み出す恐怖を描いた作品や読み終えたあとにもう一度振り返りたくなるような意味が分かると怖い話、ひんやりとした読後感が印象に残る物語が好きです。
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