友人のお兄さん
大学時代、仲のいい友人の家によく遊びに行っていました。
友人は実家暮らしで、少し古い家に住んでいます。
気配り上手で優しく、家族も気さくな人たちで、夕食をごちそうになったり、そのまま泊めてもらったりすることも珍しくありませんでした。
家に遊びに行くと、いつも自宅で仕事をしているというお父さんが出迎えてくれます。
お父さんは料理上手で、友人の家に泊まりに行くときは、晩ご飯も楽しみのひとつになっていました。
お母さんはかなり忙しく、出張も多いようでした。
そのため、家ではお兄さんを見かけることのほうが多かったです。
お兄さんを初めて見たのは、遊びに行った日の夕方だったと思います。
トイレから戻る途中、廊下の向こうから二十代くらいの男性が歩いてきました。
友人とどことなく顔立ちが似ていたので、お兄さんだと思い「こんにちは」と挨拶をすると、男性も無言で軽く頭を下げてくれました。
それからも友人宅へ行くと、たまにその男性を見かけます。
ただ、いつも廊下ですれ違うだけで、リビングなどでは一度も見かけません。
友人の口から兄の話題が出たことがなかったので、家族ともあまり交流をしないぐらいに無口な人なのだろうと思い、こちらから話しかけることもありませんでした。
家族の話をしていると
ある日、友人と雑談していたときのことです。
就職の話から家族の話題になり、ふと思い出して尋ねました。
「そういえば、お兄さんって何の仕事してるの?」
友人は不思議そうな顔をしました。
「お兄さん……?私、一人っ子だけど」
冗談だと思いました。
しかし、何度聞いても友人は「兄などいない」と言います。
そこで男性の特徴を説明すると、友人の顔からみるみる表情が消えていきました。
しばらく黙ったあと、友人は小さな声で言いました。
「……そいつ、また出たの?」
誰も知らない
意味がわからず聞き返すと、以前にも友人の家へ遊びに来た人が、同じ男性を見たことがあるそうです。
その人も当然、友人の兄か親戚だと思っていたのだとか。
友人を含め、家族は誰もその男性を見たことがなく、正体は今もわからないままでした。
何度も知らない男性に出くわしていたのだと思うとゾッとしましたが、私以上に友人が参っている様子を見ているうちに、少しずつ冷静になっていきました。
真っ青な顔で震える友人を宥めながら、男性の顔を思い浮かべます。
ひと目見たとき、家の中にいたこともあって「家族のひとりなんだろうな」と受け入れられる程度には、他人とは思えない顔立ちでした。
そんな人が、何のためにいたのか。
そもそも、なぜ友人に似た顔をしていたのか。
思い返せば、妙な話ですよね。
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。

◆さしすせそそぎ
怪談や都市伝説、モキュメンタリー作品が好きで日頃からさまざまなホラーコンテンツに触れています。不気味な余韻が残る物語や「読まなければよかった」と思いながらも続きが気になってしまうような怖い話をお届けできればと思っています。
特に、人の悪意や心理が生み出す恐怖を描いた作品や読み終えたあとにもう一度振り返りたくなるような意味が分かると怖い話、ひんやりとした読後感が印象に残る物語が好きです。
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