終電を逃した駅のホームで
時刻は夜の10時。私は、初めて訪れた駅のホームで途方に暮れていました。
仕事の出張でとある田舎町を訪れた私は、取引先との打ち合わせの後、そのまま予定外の外食を共にすることに。
ホテルまでは電車で戻る予定でしたが、店を出た頃には辺りは真っ暗。
最寄り駅へと走った努力も空しく、寸前のところで終電を逃し、酷使した足を休めるためにホームのベンチで足を休めていました。
見知らぬ土地の、馴染みのない駅のホームで一人。
心細さが押し寄せてきました。
少々お金はかかるが、ホテルまではタクシーで戻るしかないか。そんなことを考えていると……。
「すみません」
驚きで肩が飛び跳ねました。
一人きりだと思っていたところに、突然後ろから声をかけられたのです。
反射的に、声のした方を振り返りました。
尋ねる少年
振り返ると、学ラン姿の少年が立っていました。
「すみません、……ですか?」
なにか恐ろしい者の姿を想像して振り返った私は、その正体がごく普通の子供ということに安堵しました。
それに、少年は私になにかを尋ねているようです。
少年も私と同じく、部活動などが長引き、終電を逃してしまったのでしょうか。
「あ、ああ。どうしたの?終電なら、さっき出てしまったみたいだね。」
「……」
私が少年へ返事をするも、少年は黙ったまま。
「すみません、……ですか?」
再び、少年が私になにかを尋ねました。
なんなんだ、変な子だな。それに、こんなに近くにいるのに、少年がなにを言っているのかよく聞き取れない。
少年は私になにを聞いているんだろう?そう思って、少年に意識を集中させると……。
「……う、うわああああ?!」
どうして、私は気付いていなかったのでしょうか。
ごく普通の子供に見えていた、その少年は。
「すみません。僕の頭はどこですか?」
首から上が、なにもありませんでした。
思い出せない、顔
私はその後、逃げるようにしてホームを走り、駅の改札を逆戻りして駅を飛び出しました。
どうしてあのとき、少年がごく普通の子供に見えていたのでしょうか。
話しかけてきたときは、頭部があったのでしょうか。
私は、少年の顔をまったく覚えていないのです。
あなたも、田舎のホームで終電を逃したときは、ご注意を。
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。
◆松木あや
ホラーやオカルトが好き。在住する東北の地で、ひんやりとした怖い話を収集しています。
恐怖体験の「おすそわけ」を楽しんでもらえると嬉しいです。
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