気になる空き家
これは、私がまだ幼い頃の話。
家族で親戚の家を訪ねて、とある田舎町へとやってきました。
最初はお菓子やジュースをごちそうになりながら過ごしていましたが、次第に暇を持て余した私は家の周りを散策することに。
近くには数軒の住宅がありましたが、とある一軒の家に目が止まりました。
人気が無いその家は、どうやら空き家のようです。なんとなくその家の前で足を止め、ぼーっと眺めていました。
「あっ!」
空き家の窓から、なにか動く影を見つけます。
私は当時、猫が大好きで、道端で猫を見つけてはどこまでも追いかけていくような子供でした。
「きっと空き家の中に猫がいるのだろう」そう踏んだ私は、玄関のドアを開け、空き家へと侵入することに。
なにかがいる
空き家の中は、昼間だというのに真っ暗でした。
埃っぽさが鼻を突き、少々不気味な雰囲気ではありましたが……
「にゃーお、にゃーお」
得意の猫の鳴き真似をしながら、恐る恐る家の奥へと進んでいきます。
すると、そのとき。
「なっ、なにっ!?」
突然、肩になにかが触れた気がしました。
反射的にその方向を振り返りましたが、とくに変わった様子はありません。
一気に恐ろしくなった私は、もう猫の存在などどうでもよくなり、玄関まで走りました。
しかし、勢いよく玄関ドアを開け、外へ飛び出そうとすると……
「きゃっ、きゃあああっ!!」
後ろから伸びてきたのは、たくさんの子供の手。
その無数の手が、私を家の中へと引きずり込もうとするのです。
必死にもがくも、私の体はどんどん家の中へ……。
「よかった」
「お姉ちゃん、お姉ちゃん!!」
なんと、先ほど開けた玄関ドアの向こうに、親戚のお姉さんが見えたのです。
突然いなくなった私を心配して、辺りを探し回ってくれていたのだとか。
私の叫び声に気付いたお姉さんは、私の腕を強く引き、外へ引きずり出してくれました。
「うっ、うわあああん、わあああ」
大泣きする私を、お姉さんは強く抱き締めてくれました。
なぜかお姉さんまでもが泣きそうな顔で、何度も「よかった、よかった」と、繰り返しながら。
のちに聞いた話ですが、お姉さんも幼い頃、この空き家に引きずり込まれかけたことがあるのだとか。
お姉さんは自身の恐ろしい体験を私に重ね、心から心配してくれたのでしょう。
あの空き家に、一体なにが潜んでいるのか。どうして、あんなにたくさんの子供の手が現れたのか。どうして、私を引きずり込もうとしたのか。
今となってはなにもわかりませんが、もしもあのとき、お姉さんが空き家の前に現れなければ……。
今でも、思い出してはゾッとする体験です。
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。

◆松木あや
ホラーやオカルトが好き。在住する東北の地で、ひんやりとした怖い話を収集しています。
恐怖体験の「おすそわけ」を楽しんでもらえると嬉しいです。
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