前から歩いてくる女性
仕事が終わらず、すっかり遅くなってしまったある日の帰り道のことです。
真っ直ぐ続く道を歩いていると、前方から人が歩いてきました。
その人物まではある程度の距離があり、顔はよく見えませんが、女の人であることはわかりました。
暗い夜道。男性とすれ違うには少々警戒心が働きますが、同性であればそれほど心配することもありません。
安心しながら歩みを進めているうちに、どこか違和感を覚えるように。
どんなに女性に近付いても、顔がなぜか認識できないのです。
鼓膜を突くような笑い声
上手く表現できないのですが、確かに顔が見える距離なのに、一体どういうわけか顔がハッキリとわからないのです。
初めて経験する不思議な感覚でした。
すると、すれ違いざまに女性が……
「私、どこかおかしいですか?」
つい、私がまじまじと顔を見つめていたからでしょう。
不快に思わせてしまったのかもしれません。
慌てた私は、咄嗟に彼女へこう返しました。
「いえ、すみません、知り合いに似ていたもので……」
すると女性は、甲高い声を響かせ、突然笑い出したのです。
まるで金切声のように耳をつんざく笑い声は、鼓膜がブルブルと震えるようでした。
ひとしきり笑い終わった女性は、私に向き直り、こう言いました。
「お知り合いも、首がないのですか?」
どうして気付かなかったのでしょうか。
その女性には、首から上がありませんでした。
不安を振り払った、その先に
「っひ、ひいいいっ!?」
恐怖のあまり、その場に尻もちをつく私。
すると女性はまた異様な笑い声を響かせ、ひたすらに笑い続けました。
その声を聞いていると、だんだんと意識が遠のくようで……
気が付くと、私は見知らぬ通行人に肩を揺すられ、目を覚ましました。
どうやらその場で壁にもたれるようにして、意識を失っていたようです。
心配する通行人に御礼を告げ、再び帰り道を歩き始めました。
「先ほど見た女性は……きっと夢だったんだ」
最近は睡眠不足が続いていたから、きっと帰り道でうっかり寝てしまい、悪夢を見たのだ……
無茶苦茶な言い訳を自分に言い聞かせ、落ち着きを取り戻そうとしていたそのときでした。
前方に転がる、丸い球。
子どもが忘れていったサッカーボールか何かだろうかと目を凝らすと、すぐに私は叫び声を上げることに。
ボールのような、それは……
「お知り合いは、こんな顔ですか?アハハハハハ……」
ゴロリと転がる、女性の生首でした。
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。

◆松木あや
ホラーやオカルトが好き。在住する東北の地で、ひんやりとした怖い話を収集しています。
恐怖体験の「おすそわけ」を楽しんでもらえると嬉しいです。
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