廃墟探索
「K太の凸撃廃墟訪問」という動画チャンネルをご存知ですか?
もともとはマニア向けにニッチな廃墟を撮影しているチャンネルだったのですが、廃校で撮った動画の一部で不自然な声が聞こえるとSNS上で話題に。
どうやら、それで味をしめたのでしょう。
以降、K太と名乗る配信者は廃墟を中心に心霊スポットを訪れるようになりました。
……まあ、それも2年前までのことですが。
あるときを境に、彼はパタリと配信をやめてしまったのです。
工場の廃墟
「どうも!K太の凸撃廃墟訪問、今日は女の泣き声が聞こえるという廃墟に潜入します!」
あれは、東北地方にあるという工場の廃墟を訪れていたときのこと。
トタンの壁とアルミ製の簡易なドアで囲まれたその建物は、どこもかしこも錆びついていて「今まさに朽ちかけている」という印象でした。
挨拶もそこそこにK太は建物に近づきます。
どこかに人が通れる隙間があったのでしょう。
すんなりと工場に侵入した彼は、暗い室内を懐中電灯で照らしました。
目の前の広いスペースには、下駄箱として使われていたらしき扉付きのロッカー。
室内は草が侵食し、ロッカーもサビで覆われていましたが、意外にも人の手で荒らされた形跡はありません。
そのことに興奮しながら、K太はロッカーの扉をひとつずつ開けていったのです。
女の頭
ガサガサッ……。
いくつめかの扉を開けた時、カメラの背後で動物がうごめくような音が聞こえました。
K太は勢いよく後ろを振り返りますが、コンクリートの床があるだけでそこにはなにも映っていません。
ギィ……。
今度はロッカーのある方向から音が聞こえ、彼はこわごわと振り返ります。
「ワアアア!!!」
尻餅をついたのでしょう。
K太が悲鳴をあげたかと思うと、カメラは地面に近づき、ロッカーを見上げる構図に。
「い、い、今、その中に女の頭が……!」
震える声で訴えるK太ですが、視聴者の反応は冷静で。
『ビビりすぎ』『見間違い乙』『なに騒いでんの?こいつまじ寒いわ』
私も彼らと同様に、K太が配信を盛り上げるために芝居を打っているのだと思っていました。
いくらか落ち着きを取り戻した様子のK太はゆっくりと立ち上がり、再びロッカーを覗きます。
「えー、ほんとだって。女の顔が見えたんだけどな……」
ガサガサ。
彼の背後でまた、何かが地面を這うような音。
先ほどよりも近くから聞こえたのに、K太はロッカーに夢中なのか反応を示しませんでした。
ヤギの声
『なんか聞こえる』『うしろ』『気づいてない?』
騒然とするコメント欄を見て、ようやく異常に気付いたK太。
「え?うしろ?なにも聞こえないけ、……」
暗い室内に流れた沈黙。
ガチャガチャッ。
耳障りな音と共にカメラが大きく揺れます。
どうやら彼は、振り向きざまに持っていた懐中電灯とスマートフォンを落としたようです。
「ギャハハハッアハハハ!!ウッ、ギャハハハハハ」
バンバンバンバン!!!
ロッカーに硬いものをぶつける音と、時折うめき声が混じるK太の笑い声。
「めぇーー、めぇーー」
そして、ヤギのように鳴く奇妙な女の声と地面を這う人間の指先が、落ちたカメラに記録されていました。
……これ以降、K太は動画配信をやめてしまいました。
いや、すでに配信をすることが出来なくなっているのかもしれません。
配信者のK太……、S木コウタは私の友人です。
もし、彼の行方やあの廃墟の場所をご存じの方はご連絡をいただけると幸いです。
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。

◆底渦
中学生で都市伝説にドハマりし、2chホラーと共に青春を駆け抜けたネット廃人系オカルトライター。
怖い話の収集・考察が趣味です。
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