一人きりの女の子
暇を持て余し、夜の散歩に出かけたときのことです。
近所のとある公園の前を通りかかると……
「あれ……?」
公園の真ん中に、一人でたたずむ女の子の姿が見えました。
年齢は5〜6歳くらいでしょうか。
時刻は夜の12時をまわった頃。そんな時間に、子どもが一人きりで公園にいるのは不自然な光景です。
心配になった私は、公園の外から女の子へ声をかけてみることに。
「こんばんはー、ねえ、お父さん、お母さんはー?」
しかし女の子は、こちらを振り返りません。
心配
あたりはシンとしているため、恐らく声は届いているでしょう。
子ども特有の、照れや人見知りで、反応がないのかもしれません。
それなら、下手に近付いても怖がらせるだけ。私はそのまま距離を保ったまま、女の子の様子を観察することにしました。
しかし女の子はなにをするわけでもなく、ただ公園の真ん中に立っているだけ。
もし迷子や家出で公園に来たのなら、ベンチやブランコに座ったりしていそうなものですが……。
そうしてしばらく様子を見ていると、女の子に動きがありました。
女の子は、公園に設置されているトイレへと入っていきました。
しかし、5分、10分と経っても、出てくる様子がありません。
心配になった私は、女の子の様子を伺いにトイレへ向かいました。
“ギョロリ”
「お、おーい……」
声をかけながら、暗いトイレの中を進みます。
電気は壊れているようでした。仕方なく、スマホのライトでトイレの中を照らします。
しかし……こんな暗がりの中、女の子はよく先へ進めたものです。
そのときでした。
“ガタガタガタッ!バンッ!”
一番奥の個室から、激しい物音が。
それはまるで、バタバタと暴れる足が、壁を蹴り上げているかのような……
心配になった私は、その個室の前に駆け付けます。個室のドアは、開いているようでした。
そうして、スマホのライトで個室内を照らすと……
「っきゃ、きゃあああっ!?」
そこには、便座にダラリともたれかかる、女の子の姿が。
大きく開いた口からはヨダレを垂れ流し、顔は真っ白。
重力に負けた頭は、あらぬ方向を向いています……
『死……んでいる』
一瞬にしてそう感じ、警察に連絡しようとスマホの画面に指を滑らせたときでした。
「っひ……!?」
女の子は、見開かれた眼球だけを“ギョロリ”とこちらに向け……
「ああぁあ……くるしぃ、くるしぃ……くるしぃぃいい、ああぁあああっ」
私の目を見つめながら、悶絶するように、悲痛な声をあげてきたのです。
その光景は……
「ひいいいいぃっ!!」
あまりの迫力に、スマホを床に落とす私。
震える手で拾い上げ、再び個室を照らすと……
「あっ、あれ……!?」
女の子の姿が、ありませんでした。
後日知ったのですが、その公園のトイレでは昔、幼児の殺害事件があったのだそう……。
当時の私は引っ越してきたばかりで、その事件を知らなかったのです。
私が見た、あの女の子は、もしかして……
今でもあの公園のトイレで苦しみ続ける、女児の悲痛な“念”が見せた光景だったのかもしれません。
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。

◆松木あや
ホラーやオカルトが好き。在住する東北の地で、ひんやりとした怖い話を収集しています。
恐怖体験の「おすそわけ」を楽しんでもらえると嬉しいです。
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