日本のアパートの廊下

【ゾッとする怖い話】「聞いちゃったの?」ベランダ越しに聴こえる“隣人”の声

Lifestyle

引っ越したばかりのベランダ越しに、聴こえてきたのは明るい声。
姿は見えないけれど、毎晩のように交わす会話は、ちょっとした心の支えだったはず――
“あの日”までは。

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ベランダ越しの会話

日本のアパートの廊下出典:stock.adobe.com

「引っ越し、したばかりなんですか?」

夜、ベランダで洗濯物を取り込んでいると、ふいに声をかけられた。
隣のベランダとの間にある、すりガラス越しに人の気配。姿は見えないが、20代くらいの若い女性の声だった。

「そうです。先週からです。挨拶もせず、すみません」
「ああ、やっぱり。見かけない人だなって思って」

すりガラス越しに、聴こえた彼女の声。
彼女は、よく話す人だった。

ベランダに洗濯を干すとき、取り込むとき、どこのスーパーが安いとか、このマンションは夏に虫がわくとか、たわいもない雑談を交わす。

私は「隣人さん」と彼女を呼ぶようになった。名前は知らない。姿も見たことはない。
それでも、なんとなく親しみを感じていた。

気のせい?多すぎる違和感

ある夜のこと。
「昨日、音がしてましたよね?」と彼女が言った。
「え?」
「22時くらい。何度もドンドンって」

私は考える。昨日は仕事で遅くなり、帰宅したのは23時を回っていた。そんな音は聞いていない。
「……私じゃないと思います」
「あ、そうなんですね。じゃあ、上の人かな」

それきり、その夜はすぐに彼女の声も消えた。
けれど、それを境に――少しずつ、おかしなことが増えていった。

洗濯物が一枚だけ消えたり、ベランダに誰かの足跡のような黒い跡がついていたり。

“隣人さん”にそれを話すと、「ああ、それ、うちにもありました」と言うだけで、話題を変える。
深く追及する様子はなかった。

そして、ある日。
契約ぶりにオーナーを見かけたので、ふと聞いてみた。

「隣の部屋って、どんな人が住んでいるんですか?」
オーナーは怪訝な顔をして言った。

「いえ?お隣は空き部屋ですよ。去年からずっと」

……空き部屋?
一瞬、意味がわからなかった。

「でも、毎晩話してますよ。ベランダで。声も、ちゃんと聞こえます」

「それは……おかしいな。
あそこ、内見しても本当に決まらないんですよ。
電気も通ってないんじゃないかな、今」

予想外の反応に、鳥肌が立つ。
部屋に戻って、震える手でベランダのガラス戸を閉め、鍵をかけた。

「聞いちゃったんですね」

ベランダの手すり出典:stock.adobe.com

ガラス越しに、彼女の声が大きく聞こえた。
「管理人さんに、聞いちゃったんだ」

低く、落ち着いた声だった。今までとは、少し違う響き。

女の声に混じって、どこか、乾いた笑いが混じっていたのがやけに不気味だ。
「……誰?」
「隣人ですよ。ずっと、隣にいたじゃないですか」

ドン、とガラス戸が叩かれる。
背筋が凍る音だった。

翌朝。警察に通報したが、当然、何も出てこなかった。
隣の部屋には、誰も住んでいないという報告。
あれから、私はなるべくベランダに出ないようにしている。

でも――。
壁がコンコンと叩かれる。
彼女が言っていた、22時すぎ。
私はすぐに鍵がかかっていることを確かめる。

たまに、「ねえ、また話そうよ」
彼女の明るい声が、聞こえる気がする……。

※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。

斎 透(さい とおる)

◆斎 透(さい とおる)

noteにて短編小説を執筆中の、犬と暮らすアラサー女子です。
やるせない夜にそっと寄り添うような文章をお届けしています。
幼い頃から、オカルト好きな母と叔母の影響で、不思議な話に夢中に。
「誰でも一つは、背中がひんやりする話を持っている」をモットーに、
ゾッとするけど、どこか温度のある物語を綴っています。
美容やキラキラした話題に疲れた夜、よければ一編、覗いてみてくださいね。
●note:https://note.com/sai_to_ru

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斎 透(さい とおる)

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幼い頃から、オカルト好きな母と叔母の影響で、不思議な話に夢中に。
「誰でも一つは、背中がひんやりする話を持っている」をモットーに、
ゾッとするけど、どこか温度のある物語を綴っています。
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