思い出せない夢
これは、つい2週間ほど前の話です。
草木も眠る丑三つ時、僕はなにかとても恐ろしい夢を見て、叫び声をあげながら跳ね起きました。
心臓がバクバクと早鐘を打ち、体は汗まみれ。
しかし、いったい何がそれほど恐ろしかったのか。
全く思い出せません。
わずかに記憶に残っているのは、階段状の構造が特徴的な見知らぬ墓地に立っていたということだけ……。
夢は夢だ、なんてことはない。
明日は大事な商談が控えているから、緊張しているせいでおかしな夢をみたのだろう。
僕はなんとか自分の心を落ち着かせ、再び眠りにつきました。
しかし、商談を無事に終えた翌日も、僕はあの墓地の夢を見たのです。
知らないアカウント
『2日連続で知らない墓地にいる夢を見た。縁起でもない!笑』
『夢の中でなにかが怖かったんだけど、全然思い出せないんだよね。これが老化か……笑』
僕は自分の恐怖心を紛らわそうと、SNSアカウントに投稿しました。
会社の同僚や友人からいくつか反応がありましたが、その中に知らないアカウントからの返信がひとつ。
『それって、こんな墓地じゃありませんか?』
言葉と共に、一枚の写真が添付されていました。
それはまさしく、僕が夢で見た階段状の墓地。
『え!?そうです!なんでわかったんですか?ていうか、これってどこですか?笑』
あのとき、興奮しながら返信したことを僕は後悔しています。
記憶
『この墓地は、私の息子が埋葬されている場所です。N山S太、覚えていますか?
中学生のとき、クラスメイトだったあなたからイジメられて、自ら命を絶ちました。
最近、私の夢にも息子が現れて……」
ここまで読んで、SNSを閉じました。
N山S太……いままで思い出しもしなかった、記憶の片隅にある名前。
僕は確かに彼をイジメていましたが、そんなにひどいことはしていません。
だから、彼が亡くなったと聞いたときも、
「この程度で死ぬなんて、やっぱりどんくさい奴だな」としか思いませんでした。
もちろん、墓参りになんて行くはずもなく……。
そして、僕はようやく気が付きました。
夢の中に現れた恐ろしいものとは、中学校の制服を真っ赤に染めた、頭の潰れた男の子。
自宅のマンションから飛び降りたというN山S太くんが、階段状の墓地の上でニコニコと笑いながらこちらを見下ろしている光景です。
夢かうつつか
彼のことを思い出してからも、僕は眠るたびに墓地の夢を見ています。
そして、はじめは遠くにいたはずのN山S太くんは、少しずつこちらに近づいてきているようです。
もう何日も徹夜を続けていますが、そろそろ眠気の限界で……。
このまま夢を見続けたら、僕はどうなってしまうのでしょうか?
20年近く前に亡くなったN山くんに、いまさらあの世に連れていかれるなんて、ありえないですよね。
ねえ、ありえないですよね?
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。

◆底渦
中学生で都市伝説にドハマりし、2chホラーと共に青春を駆け抜けたネット廃人系オカルトライター。
怖い話の収集・考察が趣味です。
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