新築アパート
これは20年ほど前、九州のとあるアパートで体験した話です。
当時、私は小学4年生。
母の知人が新築アパートを建てたということで、ちょうど新居を探していた私たち一家は、その建物の2階に部屋を借りることになりました。
新しい木の香りが漂うアパートは、以前住んでいた家よりも広く、リビングもお風呂もピカピカ。
そして、なによりも私が嬉しかったのは、初めてのひとり部屋をもらったことです。
壁には大好きなアイドルの写真を張ろう。あそこにはぬいぐるみを飾って……。
自分の自由にできる場所を手に入れた私は、胸にたくさんのワクワクを感じる一方、こんな悩みをかかえることになりました。
夜、ひとりで眠るのが恐ろしくてたまらないのです。
前の家では両親と同じ部屋で寝ていましたが、自分の部屋がある以上、そこで眠るのが当たり前。
4年生にもなって、「ひとりで寝られない」と両親に打ち明けるのもなんだか恥ずかしく、私は毎晩、豆電球の明かりを頼りに緊張しながら眠りについていました。
戦慄の夜
ある夏の夜のこと。
一度寝てしまえば、朝まで起きないはずの私が、なぜか夜中に目を覚ましました。
まぶた越しにオレンジ色の光を感じますが、「もし、ナニかがベッドの横に立っていたら……」と思うと、恐怖で目を開けられません。
私は、乱れたタオルケットを手探りで体に掛けなおし、眠気がやってくるのを待ちます。
うとうと……うとうと……。
心地よい眠気が体に広がり、頭がぼんやりしてきたころ。
ドンッ、と重たいものが落ちるような音が玄関から聞こえ、私は飛び起きました。
驚きのあまり開いてしまった目を、またすぐに閉じます。
きっと、靴箱が落ちたのだろう……。
ありえない想像ですが、そうでも思っていないと、恐ろしくて眠れません。
ドクドクといつもより早いスピードで脈打つ心臓を落ち着かせるため、深呼吸。
頭の中で数をかぞえながら息を吐いていると、“ガラガラッ”。
「〜〜に行きませんかー!?」
私の部屋の引き戸が開き、知らない男の叫び声が聞こえました。
「ッ……!」
思わぬ出来事に、私は身を固まらせます。
その直後、大勢の人が部屋の中になだれ込んでくる気配を感じ、私は気を失いました。
朝
目が覚めると、そこは朝日が差し込む、普段通りの自分の部屋。
おそるおそる玄関も確かめますが、なにかが落ちたような形跡はありません。
夜中の出来事はなんだったのだろう。
首をかしげながら朝食を口に運んでいると、「顔色が悪いけど、体調でも悪いの?」と心配そうな顔の母に尋ねられました。
「えっと……昨日、夜中に誰かが来たり、してないよね?」
私は思い切ってそう言いますが、母は訳が分からないという表情。
「え?なんの話……?」
……結局、あの恐怖の夜が夢か現実かわからぬまま、私たち一家はそのアパートをわずか1年たらずで退去することに。
奇妙な出来事があったと言え、なぜすぐに引っ越すことになったのか、私はずっと疑問に思っていました。
せっかく住めた新築の家だったのに……。
理由
そこで、この話を投稿するにあたり、私は母に当時のことを聞いてみたのです。
「私が小学4年生のころに住んでいたアパート、新築で綺麗だったよね?お母さんも喜んでたのに、なんですぐに引っ越しちゃったの?」
「覚えてないの?あなたの様子がおかしくなったからよ……」
母の話によると、あの夜以降、友達を呼んでいるわけでもないのに、ひとりで楽しそうに話す私の声が部屋の中から聞こえてくるようになったのだそう。
さらに、それまでは嫌がっていた留守番を「寂しくない、1人じゃないから」と喜んで引き受けるようになり……、私の様子を心配した両親は退去を決めたということでした。
「あの家、見た目は綺麗だったけど、時々雰囲気が怖かったのよね。引っ越してからはあなたの様子も元に戻って安心したわ」
今も九州地方に実在するあのアパートには、やはり「何か」がいたのかもしれません。
(MoaI/女/20代後半)
※この記事は読者から寄せられた体験談を元に、一部編集を加えて作成しています
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