終わらない階段
日曜の夕方、買い物を終えた俺は駐車場へ向かうため、混雑するエレベーターを避けて階段を選んだ。
モールの中は人であふれていたのに、階段に足を踏み入れた途端、世界が変わったように静まり返る。
無機質なコンクリートの壁が続き、靴音だけが乾いた響きを返す。
地下二階まで降りれば駐車場に出られるはず──そう思いながら踊り場を曲がり、鉄扉を押した。
だが、そこに広がっていたのは駐車場ではなく、「1」の数字が掲げられた踊り場だった。確かに一階から地下二階まで降りてきたはずなのに、また階段に戻されている。
繰り返す光景
気のせいだと自分に言い聞かせ、もう一度階段を降りた。扉を開ける。
だが、そこもまた同じ踊り場。
三度目も結果は変わらなかった。
何度降りても辿り着くのは一階、しかも店内には戻れなくなっていた。
息は荒くなり、背中を汗が伝う。
駆け足で階段を駆け降り、半ばやけになって扉を押した。──その先は駐車場だった。
安堵も束の間、目に映った光景に凍りついた。
無数の車が整然と並んでいる。
だがすべてがグレーの乗用車で、同じ型、同じナンバー。どこを見ても同じ車ばかりで、肝心の自分の車はどこにもない。
戻るための昔話
恐怖に駆られ、ポケットから電子タバコを取り出した。
マナー違反だとわかっていたが、「煙草の煙は境界を切り替える」と昔どこかで聞いた気がする。
そんな根拠のない話に縋るしかなかった。
スイッチを入れ、白い煙を吐き出す。
ふわりと漂った瞬間、景色がぐにゃりと歪んだ。
振り返ると、そこには色とりどりの車が停まる、見慣れた駐車場と自分の車があった。
慌てて煙を消し、車に乗り込む。
震える手でハンドルを握り、バックミラーを覗いた。──無限に並んでいた灰色の車列は跡形もなく消えていた。
エンジン音の下で、自分の鼓動だけが異様に大きく響いている。
あの光景は何だったのか。
もう二度と、モールの階段を使うことはないだろう。
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。

◆斎 透(さい とおる)
noteにて短編小説を執筆中の、犬と暮らすアラサー女子です。
やるせない夜にそっと寄り添うような文章をお届けしています。
幼い頃から、オカルト好きな母と叔母の影響で、不思議な話に夢中に。
「誰でも一つは、背中がひんやりする話を持っている」をモットーに、
ゾッとするけど、どこか温度のある物語を綴っています。
美容やキラキラした話題に疲れた夜、よければ一編、覗いてみてくださいね。
●note:https://note.com/sai_to_ru
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