出窓のあるアパート
当時、宅配業者の配達員として働いていた僕には、どうしても気の進まない配達先がありました。
そこは、築20年は経過していそうな古ぼけた外観のKアパート。
一見、なんの変哲もないもない建物ですが、角部屋には出窓が取り付けられており、僕がそのアパートを訪れるたびに3階の窓から誰かがぼうっとこちらを見下ろしているのです。
“誰か”というのはガリガリに痩せた女性だったり、だらしなく太った男性だったり、日によって違います。
時には小学校低学年くらいに見える女の子や、厳しい表情のおじいさんがこちらを見下ろしていたこともありました。
おかしな家族だなぁ……。
はじめはそんな風に少し不思議に思う程度でしたが、同じ配達エリアを担当している同僚に聞いてみると「そんな人、見たことないよ」と言われるばかり。
次第に僕はあの家に対し、不安にも似た恐怖を感じるようになっていったのです。
配達
ある曇り空の日のこと。
荷物を載せた車を走らせ、Kアパートに向かうと、3階の出窓からはいつものように肥え太った男性がじっとこちらを見つめていました。
なるべく視線を合わせないようにしながら建物に入り、伝票に記された部屋番号を確かめます。
その瞬間、階段を上る足が止まりました。
配達先は、よりによってあの出窓のある部屋だったのです。
そういえば、この家に荷物を届けるのは初めてのこと。
「嫌だなぁ……」と呟くのと同時に小さな好奇心も感じ、僕は再び足を動かし始めました。
住人
無機質な金属製のドアの前に立ち、僕は覚悟を決めます。
緊張しながらインターフォンを押すと、少しの間を置いて、けだるそうな男性の声が応えました。
『……はい』
「あ……あの、荷物のお届けに参りました」
ガサガサと物音が聞こえた後、ゆっくりとドアが開きます。
「どうも」
現れたのは、あの太った男性ではなく、ひょろりと背の高い三十代前半くらいの男性。
無精髭が生えやしたその顔は、どこか疲れたような表情です。
「ここにサインをお願いします」
ボールペンを手渡したあと、僕はこっそりと部屋の中を覗きました。
しかし、玄関から出窓のある方向は死角になっており、人の気配も感じられません。
「あー……。お兄さん、もしかして窓からなんか見えてます?」
こちらには視線を向けず、そう問いかけてきた男性に僕は思わず言葉を詰まらせます。
「え、あ、すいません。えっと……、いつも窓際に人が立ってますよね。ご家族ですか?」
そう聞き返すと男性は、ハハハと楽しそうな笑い声をあげました。
忠告
「違いますよ。俺、一人暮らしですから」
「え、じゃあ……?」
彼は、こちらを見ずに続けます。
「それにあの窓……外からしか見えませんから。内側には壁があるので」
耳を疑うような発言のあと、サインを済ませた男性は、声を低くして言いました。
「お兄さんも、あんまり目を合わせないほうがいいですよ。取り込まれちゃうかもしれませんから」
……それからというものの、Kアパートを訪れても僕はあの出窓を見上げないようにしていました。
しかしたった一度だけ、これまでとはどこか違う、重く絡みつくような眼差しを感じてフッと顔を上げてしまったのです。
生気を失った顔で出窓からジッとこちらを覗いていたのは、あの髭を生やした背の高い男性。
その後、僕はすぐに会社に退職届を出し、Kアパートを訪れることは二度とありませんでした。
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。

◆底渦
中学生で都市伝説にドハマりし、2chホラーと共に青春を駆け抜けたネット廃人系オカルトライター。
怖い話の収集・考察が趣味です。
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