向かいのおばさん
高校生の頃、向かいの家のおばさんが苦手でした。
家の中を覗いてくるようなことはないんですけど、見張られているというか……。
ゴミの分別が甘いよと注意してきたり、昨日は帰りが遅かったとか、庭の草が伸びてきたとか、いちいちそんなことを言ってくるんです。
お節介なおばさん、という感じでした。母もあまりよく思っていなかったと思います。
「お父さん単身赴任で大変でしょう」とか、教えていないことまで嗅ぎつけて言ってきたりして、気味が悪かったですもん。
センサーライト
母が仕事で帰りが遅くなった日のことです。
それ自体は珍しいことでもなくて、私はいつも通り1人で夕食をとって、2階の自分の部屋で課題をやっていました。
うちの庭には人感のセンサーライトがあって、玄関側から誰か来ると2階からでも光るのがわかるんです。
22時を過ぎた頃だったと思います。
ふいに庭がぱっと明るくなりました。
あ、お母さん帰ってきたんだ、と思いました。
でも、しばらく待っても玄関の開く音がしません。
母が車から降りて、庭で何か作業をしているのかもしれない。
降りていって手伝った方がいいかなとも思いましたが、何かあれば呼ぶだろうと、そのまま課題に戻りました。
結局、母が家に入ってきたのはそれから30分くらい後です。
1階へ降りて、「さっき、何してたの?」と聞くと、母はきょとんとしていました。
「え? 今帰ってきたんだけど」
「あれ? そうなんだ」
気のせいだったのかなと、その時は思いました。
センサーライトの誤作動か、野良猫かタヌキでも通ったのかもしれないって。
庭にいたもの
次の日の夕方、学校から帰る途中で向かいのおばさんに呼び止められました。
「あなたねえ、もうちょっと気をつけた方がいいわよ」
「え……何がですか?」
「昨日の夜、男の人が家の前に来てたでしょう」
急に足元が冷たくなりました。
「男の人?」
「そう。あなたの家の前に、ずーっと。30分くらい、じっとしてたわよ」
昨夜のセンサーライトのことを思い出しました。
「2階の方、見てたよ。ずっと」
「お母さんの車が入ってきたら、すぐ逃げてったけど」
母が帰ってきたと思ったあのタイミングで、本当はずっと知らない男が家の前に立っていて、2階の私の部屋を見ていた。
そう考えると怖かったです。でも、辻褄は合います。
「待ち合わせって感じでもなかったし、連絡とってる様子もなくて、じーっとしてるから変だなって」
「……してないです、約束とか。彼氏もいないし」
「でしょ? おばさんも知らない、この辺で見ない人だったもん」
「しばらく1人じゃなくて、お友だちと帰ってきた方がいいよ」
おばさんは本当に心配そうに言って、私が家に入るまで見守ってくれました。
あの夜、母だと思って庭に降りていっていたら、私はどうなっていたんでしょう。
それからは、おばさんに挨拶くらいはするようになりました。
※この物語はフィクションです。
※この記事に使用している画像はイメージです。

◆味醂
子どもの頃から怖い話が好きで、ホラー小説やネット怪談など、文章作品を中心に親しんできました。
映像作品の痛そうな表現や急に驚かせる演出は少し苦手ですが、想像がふくらむ怖さや、日常の違和感が少しずつ不穏さを増していくような話に惹かれます。
読んだあとふとした瞬間に思い出してしまうような“あとから効いてくる怖さ”を大切にしています。
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